Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

取らぬ狸


4人の若い女が地下トンネルを掘っていた、
目指すは、ある地方銀行の地下の貸し金庫だった。


斉藤瞳大谷雅恵に聞いた、


「本当にその貸し金庫に、10億の金塊があるの?」
「間違いないよ。私はその銀行に勤めていて
偶然に聴いたのよ。
ある不動産屋が儲けた金を全部金塊に換えて
税金を逃れるためにこっそり貸し金庫にため込んでるのよ」


柴田あゆみがスコップを放り出してペットボトルの水を
飲み干すと、


「いつになったら、トンネルが銀行の地下金庫に届くのよ、
もう三ヶ月以上だよ〜毎日毎日暗い中で穴掘りばっかりで
いい加減疲れたよ」
あゆみのぼやきに雅恵が、
「もう少しよ、10億のためなんだから頑張ってよ」


もう一人の村田めぐみは黙々とツルハシをふるっている。


瞳が雅恵に、


「その10億なんだけど、なんで私達3人の分け前が
1億ずつで、雅恵だけ7億なのよ〜不公平だよ」
「当たり前じゃないの!私がすべて計画を練って
あなたたちに話を持っていって、1億でいいってことで
決まったことじゃないの!
1億でなんの不満があるの、1億あれば一生遊んで
暮らせるじゃないの!」
「・・・そりゃまそうだけど、1億あれば、今の田舎の
キャバクラなんか辞めて遊んで暮らせるというものだけど」


「そうだね、私も1億あれば夢だったブティックを
持てるんだ。
でも、持ち主の不動産屋は10億の金塊が無くなってることに
気がついて、警察に届けたりしないかしら」
と、あゆみが聴くと、
「その点は大丈夫。その10億の金塊は脱税をして貯めた
お金を換えたものだから、絶対に警察に届けたりは
しないから」


3人は、黙々とツルハシをふるってトンネルを掘っている
めぐみを見た、


「彼女の家は、1千万円の借金があるそうよ、
それで、一家離散で親父はホームレス、母親は男と逃げて、
弟と妹は施設にあずけられてるそうよ」
と、瞳が言った、
「たかだか1千万円ぐらいの借金で一家離散なんて
だから、日本はダメなんだよ〜」
「へぇ〜言うわね〜そういう雅恵はなんでお金が欲しいの?」


「私はね、昔から億万長者になるのが夢だったのよ、
まあ、億万長者の男と結婚するのが手っ取り早いのだけど、
男運が悪いのはどうしようもないしね。
さあさあ、もうひとふん張りだよ」
そう言うと雅恵はめぐみの掘った土をスコップですくうと
ネコ車に載せる。
そのネコ車を瞳は運び出す。
めぐみとあゆみもツルハシとスコップをふるって精をだす。
目指す銀行の地下金庫まであとわずかのはずだった。


それから一週間ほどして、ついに地下金庫の直ぐ下に
たどり着き、後一度ツルハシをふるえば穴が開く寸前だった。
最後の一撃は、計画の立案者の雅恵が行うことになり、
雅恵は大きくツルハシを振り上げた。


その時、頭上の地下金庫の中では、
信用金庫の支店長と、それに警官が大勢待ち受けていた・・・。
住民から、地面の下から怪しい物音がすると警察に
通報されていたのだ。



雅恵が思い切り振り上げたツルハシの一撃で
ついに地下金庫の床に穴が開いた。
都合のいいことに、時刻は真夜中だった。
人がひとり上がれる穴を開けると、まず雅恵が入って行く、
続いて瞳が上がってゆく、
あとのめぐみとあゆみは下のトンネルで待機させておく。
雅恵はこの銀行に勤めていただけに、目指す貸し金庫に
まっすぐ向かう、


お目当ての不動産屋の貸し金庫の前に立つ、
「ねえ雅恵、どうやって金庫を開けるのよ」
「いいから私に任せときなよ、その辺は抜かりないから」
雅恵は番号を書いた紙を取り出し、金庫のダイヤルを回し
ついに金庫を開けてしまう。


「やったね!ついに10億の金塊とご対面だよ!」
瞳が歓声を上げる、
「でも10億円分の金塊ってすごい量だよ!
え〜と、今の金価格は約1グラム2千円だから、
1キロの金塊だとすると2百万だから、10億だと・・・、
大変だ〜!5百本の金塊で、5百キロだよ!」
「瞳、うるさいよ!5百本だろうが千本だろうが、
運び出してトンネルに下ろして、ネコ車で土の代わりに
どんどん運び出せばいいだけよ」


雅恵はライトを照らして金庫の奥を探る、
ところが、金庫の中には何も見当たらない・・・。
そんな馬鹿なと、腕を伸ばして探っていると、
なにか硬いものが手に触れた、


「どお!金塊はあったの〜」
瞳の声に、雅恵は手に触れた物を取り出して見せた、
「・・・あったよ、一応金塊だけど」
それは、1キロの金の地金の板がただひとつだけ。
「なによ!たったのそれだけなの!
どうしたのよ!10億の金塊はどこへいったのよ!!」
瞳が憤慨して言うと、


雅恵は首を振ると、もう一度金庫の中を探ってみる、
すると、古ぼけたバックが出てきた、
引っ張り出してみると、ずっしりと重いがとても
10億の金塊とは思えない。
中をライトで照らしてみると、なんと札束が出てきた、
百万円の束が20個ほど出てきた、
都合2千万円の札束だった。


「やれやれ、あれだけ苦労してトンネルを掘り続けて、
ようやく手にしたのが、たったの2千万円じゃねぇ」
「しょうがないよ、手ぶらで帰るよりましと思わなくちゃ」
雅恵と瞳はただちに、トンネルに戻るとめぐみとあゆみらと
ただちにトンネルの出口に向かう、
朝になれば金庫室の床に開いた穴を見つけられて、
警察が駆けつけるだろうから。


その頃、この銀行の道路の向かい側の信用金庫の金庫室では
支店長と警官が待機していたが、何も起こらず首をひねっていた。
どうやら、信用金庫の金庫を狙ったものと、とんだ勘違いをして
いたようだった。
朝になってようやく向かいの銀行に行って気がつくのだが。



4人は雅恵のアパートに帰りつくと、
2千万円の現金と1キロの金の延べ板を前にしていた。
雅恵は、まず1千万円を自分の所に引き寄せると
残りの1千万円を3人の前に押しやった。


「10億には程遠いけど仕方ないよ、この1千万円を
3人で分配することでいいね」
瞳とあゆみは顔を見合わせていたが、諦め顔で
1千万円を3等分して、それぞれ自分の分を取った。
「あ〜あ、1億は夢と消えちゃったか、このお金は
どっか海外旅行でも行って、ぱあ〜と使っちゃおうか〜、
ねえ、あゆみも一緒に行かない?
まさかと思うけど、警察の目の届かない外国でしばらく
遊んでいようよ、3百万円あれば結構遊べるよ」


と瞳が言うと、
「私は遠慮するよ、このお金は貯金するよ」
あゆみは言った。
瞳は、じっと下を向いているめぐみに分け前の
札束を押しやった。


「めぐみ、何遠慮してるのあんたの分だよ」
「村田さん、1億でなくて悪いけど、このお金が
あれば施設にあずけられてる弟や妹と一緒に住める
部屋ぐらいなら借りられるね。今、瞳の部屋に
同居してるんでしょ」
雅恵の言葉にめぐみは首を小さく振ると、


「・・・いえ、この3百万円は少しでも借金の足しに
します、残りのお金で部屋を借りられればいいの
だけど、足りない分は私が働きます、
本当に瞳には迷惑をかけてるし、早く出て行きたい
のだけど・・・」
瞳は首を振って、
「いいんだよ、いつまでも居てもかまわないよ」


雅恵は立ち上がって、
「今どき、部屋を借りるのに30万ぽっちじゃ敷金だ、
権利金だで、すぐに足りなくなるよ!
瞳に聴いたけど、借金の1千万円は闇金に引っかかって
元は、たった百万円を借りたのに暴利が膨れ上がって
たちまち1千万円にもなったんだろ!
そんな借金なんて返すことないよ!
自己破産すればすむことだよ、なんなら私が手続きを
してあげようか」


めぐみは首を振りながら、
「いえ、やはりお借りしたお金はお返ししないと
いけないです、金利が高いのは承知の上で借りた
私たちが悪いのです」
「あ〜!イライラする!あんたみたいなお人好しが
いるから闇金のやつらを付け上がらせるんだよ!
このまま借金をほっとけば、また金利のせいで
1千万が2千万3千万にも膨れ上がるんだよ、
そうなったらどうするつもり、首でもくくるつもりかい!」


瞳が顔色を変えて雅恵の腕をつかんだ、
「あのね、めぐみの家族は一家心中を考えるほど
追い込まれてたんだよ、あなたにはわからないの!」


雅恵は座り込むと、
「一家心中なんて、今どき流行らないよ・・・」


しばらく、皆押し黙っていたが、
すると雅恵があちこちポケットを探りながら、
「あれ、ケータイを何処かに無くしちゃったみたい」
雅恵はため息をつくと、めぐみに向き直って、自分の前の
1千万円の札束を、めぐみの前に押しやった。


「ほら、この1千万円があれば借金をきれいさっぱり
返せるでしょ、そのお金を闇金の人でなしのやつらに
叩きつけてやんなさいよ!」
瞳とあゆみは、唖然として雅恵の顔を見た、
めぐみは驚いて顔を上げると、


「そんな!それは大谷さんのものです、受け取れません」
雅恵は、1キロの金の延べ板を手に取った、
「大丈夫、そのかわりこの金塊を貰うよ。
実を言うと、私は現金より金のほうが好きなんだよ」


「雅恵・・・」
瞳が雅恵の手を取って、思わず涙ぐむ。
あゆみも二人の肩に手を掛けて同じように涙ぐむ。
めぐみも涙をこぼして、手をぎゅっと握り締めた。



次の日の朝、銀行の金庫室に開いた穴から
トンネルを調べていた警官が、そこに携帯電話が
落ちているのを発見した。
それは、雅恵のケータイだった。



           終わり。