Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご2

出会いから一年ほど立っていた。

私は西鉄天神駅前でりんごと待ち合わせていた。
目立たないラフな格好の私を見つけて、
りんごは小走りに近づいてくる。

「イベントは終わったの?」
りんごはうなずいた。

駅の階段を降りて通りを歩きだした。
二人は自然に手を繋いでいた。

歩いていて、十メートルほど後ろをついて来る
女性に気がついた。見た事のある人だった。

その後も2人の後をついて来る。

混雑するバス停の人込みに紛れて、
りんごに、あの人は誰かと聞いてみる。

「としこよ!」

リーダーのとしことりんごは新曲のイベントで
二人で博多に来ていたのだ。

一年前の出会いから、 りんごが九州へライブなどで
来る度に、 連絡して会うようになっていた。
1、2時間ほど食事をして話すだけだった。

としこは、以前からりんごが九州へ来る度に
終わった後に理由を言わずに抜け出して出掛ける事に
疑惑を感じていたのかもしれない。
それで今回はりんごの後をつける気になったようだ。

駅前で待っているりんごを見張っていたら、
私が現れたわけだ。

としこは二人を見失って立ち止まって辺りを見回していた。

とにかく、話を聞きたいと思いとしこに近づいた。
声をかけると、としこは驚いたように私を見て、
それから後方のりんごに目をやった。

一礼をしてから、行きましょう。と言って歩き出した。
素直に私の後をついて来る。
りんごがすこし離れてついて来る。

通りを渡り、大丸の裏手を通って川沿いの公園に入った。

りんごをベンチに座らせて待つように言って、
としこを少し離れた場所のベンチにつれて行き、
二人で腰掛けた。

私は逃げも隠れもしない事を示す為に、
名前を名乗り、名刺をとしこに渡した。

としこは名刺を見ていたが、顔を上げ、ちらっと向こうの
りんごを見た後、口を開いた。

としこは、後をつけた事を謝ってから、

「りんごと別れてください」
と単刀直入に切り出した。

別れるもなにも、自分はりんごと付き合ってる認識は無かったが、
口には出さないでとしこの話を聞くことにした。

「りんごはアイドルとして今が一番大事な時なんです。
りんごを中心とした私達のグループは長年地道な活動を
続け、少しずつ認められるようになっているんです」

としこはひと息ついてから、

「それがあなたがりんごと付き合ってることが世間に
知られ、スキャンダルとして報道されたら、お終いなんです」

そこで私は口をはさんで、

「私はりんごと付き合ってるつもりは無いのですが」

としこは、不審そうに私を見ると、

「あなたとりんごはこれまで何度も待ち合わせて会い、
今日のように、身を寄せ合い手を繋いで歩いていました。
それを人が見たら、二人は付き合ってると思うでしょうね」

確かにそれを言われると、そう思われても仕方ないかも
しれない。

としこは立ち上がると、私に向かって頭を下げながら、
「お願いします。いきなり別れろなんて言い過ぎかも
しれません。しばらく会うのを止めてもらいたいのです」

と深く頭を下げた。

私も立ち上がった時、
りんごが小走りに近づいて来るのが見えた。

りんごは私に身を寄せて立つと、としこを見据えた。
その様子を見て、としこは唇を噛み締めている。

りんごは、としこに近寄りその腕を取ると、私から
離れた場所に連れて行きなにやら話し出した。

私は二人から少し離れると、としこの言った事を考えた、

私とりんごの関係が世間に知られ、スキャンダルとして扱われば、
りんごはグループを去る事になり、最悪グループは解散になる。
今の所、グループに取って私は迷惑な部外者に過ぎない。
としこの気持ちは十分にわかる事だった。

突然りんごのかん高い声が響いてきてそちらを見ると、
二人が言い争う様子が見えた。

思わず駆け寄ると、

りんごはまるで聞き分けの無い子供のように大声を上げ
としこを責めていた。

二人がもみ合う様になり、その拍子にとしこのバックが下に
落ちて中身がばら撒かれたようになる、

としこは悲しそうに顔をゆがめて泣いていた。

「りんご!止めなさい!」
おもわずりんごをたしなめた、

その声にきっとなってりんごは私を見たが、
すぐに駆け出して行った。

としこは後を追おうとしたが、落ちたバックを見て
腰を屈めてバックの中身を拾い集めようとした、
私も屈んで拾うのを手伝った。

としこは立ち上がると何か私に言おうとしたが、

私が早くりんごを追うように指差すと、走り出して行った。

二人が公園を出て行った後、
としこのバックに入っていたある物が気になった、


それは、ナイフだった。

その果物ナイフは、もしかして事と次第によっては、
私に対して使うつもりだったのかもしれない・・・。
としこが、それほど追い込まれていた事を感じた。

その日の夜はほとんど眠れず、りんごの事、そしてとしこの事を
考えていた。

翌日の夜に、としこが電話を掛けて来た。

としこは、くどいほど私に謝った。

私は謝らなければいけないのはこちらの方だと言い、
そして昨夜決意した事を伝えた。

「もう、りんごとは会いません」

としこはりんごの私への気持ちを代弁するように話した。

「りんごはあなたに夢中でした。あなたに恋してると
感じました」

私が何か言いかけると、

「あなたが何を思って何を言おうとも、りんごの気持ちは
私にはよくわかりました。長年一緒に過ごして来たのですから。
あなたに会いに行く前のりんごは、いつもうきうきとまるで
恋人に会いに行くみたいでした。

だから今度の博多のイベントには最初りんごは
別のメンバーと行く予定だったけど、
私と代えて貰ったんです。
今日、初めてあなたに会って、確信しました」

「それはなぜですか?」

「あの子の父親は、今仕事で別居しているんですが、
りんごとお父さんと会った事がありますが、
二人は仲睦まじい親子でした。
あなたはその父親に感じが似てるんです」

「わかりました。りんごの事は許してやって
ください。すべて私が悪いのです」

「はい。あの後りんごと話し合って、りんごも
納得してくれたみたいです。
りんごの気持ちはわかります。私だって
人を好きになった事がありますから」

そう言ってとしこは礼を言うと電話を切った。

私とりんごとは20歳もの年の差がある。
しかし、父親としてはそんなに離れていないし、
妹としては離れ過ぎている。

りんごは一人っ子だった。

前にライブが終わり会う時、りんごは食事をしななら
よくとしこの話をしてくれた。

出会いの日、りんごがライブをばっくれようと
した時の事をあとで他のメンバーから聞いて
知った事を話してくれた。

りんごが博多に行く途中の小倉で勝手に降りて
姿をくらました時、事務所のスタッフや
マネージャーが怒って、りんごは欠席すると
ファンに伝えようとした時、

リーダーのとしこだけが、りんごは時間までに
必ず来るからと言い張り、ファンに伝えるのを
止めさせたのだと聞いたとりんごは言った。

あの時、もしりんごは欠席するとファンに伝え、
そのまま、りんごが一回目二回目のライブを
欠席していたら確実にりんごは首になっていた。

なんとかりんごを私が車を飛ばして送りつけ
無事に間に合った後、としこは何か言ったのかと
聞くと、りんごは、

「終わったら、としこったら誰もいない所に
連れて行くと、私の首に腕をまわして言ったの。
『今度またばっくれたら、殺す!』って」

それを聞いて私は大笑いした。
りんごは、そんなとしこが大好きだと言った。

としこは、自分のグループを愛していたし、
それ以上にりんごを愛しているのだと思う。
そしてりんごを愛するあまりの行為だったと思う。

それからまもなく、また電話が掛かってきた。
りんごだった。出ても最初は何も言わなかったが、

「りんご!俺が悪かった・・・」

「・・・もう会えないの?」

涙声だった。

突然、りんごへの愛おしさがつのってきて、愕然とする。
そんな自分の馬鹿さかげんに呆れ返った、

今さら自分のりんごへの想いに気がつかされても
あまりにも遅すぎる。

もう会うつもりは無いとはとても言い出せなかった、

「しばらく会わない方がいいと思う」

「・・・しばらく会えないのね」

りんごは、ほっとしたように言うと電話を切った。

少しして、またまた電話が掛かってきた。

出ると、

「ごぶさたしてますぅ。あたしです」

その関西なまりの声ですぐにわかる。洋子だった。
洋子とは最初は仕事でのつき合いだった。
少し仕事の話をする。

洋子とは、なぜか気が合って何度か食事をするようになり、
付き合うようになっていた。
今は、私的な付き合いは止めていた。

話してるうちに、ぽつりと洋子が、

「この前、2、3ヶ月前やったかな、あんたが、
若くて可愛い子と歩いとるの見たよ」

何処だと聞くと、天神だと言う。
りんごとは天神で会う事が多かった。

「なんか、えぇ感じやったな。今もあの子と
付きおうとるの?」

ちょっとね、と言葉をにごすと、

「そうかぁ、変な事言うてわるかったな」
「いいよ。沙由とはまだ続いてるの?」

「はぁ?ま、ぼちぼちや」
「洋子さんはオータニだしね」
「オータニって?あぁ両刀使い、
何に言うてんの!」

笑って電話を切った。

洋子も、私とりんごを見てそういう風に感じたのかと
思う。

これからりんごとの関係がどうなるのか自分でもわからない。
としこと、りんご。二人とも好きだし、

二人の現在、将来を壊すような事は絶対にしたくない。


りんご2

続く




りんご 1





りんご 3