Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご 五

広島公演が終わって、りんごはとしこに言った。

「今日、行ってもいいかな」

「彼の所ね。連絡はしたの?」


「行かないつもりだったので、まだ連絡してないの。
彼のお仕事中は連絡はしないつもりだから」

「そう。急に会いたくなった?」

りんごはうなずいた。


「よし、行ってこい。後はまかして。でも行って彼がいなかったら」

「鍵を預かってるから」

としこはうなずいた。2人が婚約してる事を実感する。



りんごは、いつものように新幹線からタクシーで
彼の部屋の近くに着いた。


料金を払おうとした時、向こうに彼が歩いて来るのが見えた。
「・・・すみません。少し待って貰えますか」


彼は女性と一緒だった。


二人は肩を寄せ合って歩いて行く。
女性は彼よりは若く見えた。
タクシーのりんごには気づかないで通り過ぎて行った。


二人がマンションに入って行ったのを見ていて、
車のドアが開いてるの気がついて、あわてて料金を払う。

りんごはタクシーを降りて、なんとかマンションの前まで行く。


しばらくマンションの前に佇んでいたが、
いつまでも立ってるわけにはいかないので、近くに喫茶店があるのを
思い出して、キャリーバックを転がしながらその店に入った。


コーヒーとケーキを頼んだ。
一時間だけ待とうと思った。


コーヒーとケーキには手をつけずに、じっと待ち続けた。
ようやく一時間立ったので、立ち上がり冷え切ったコーヒーをひと口飲んだ。
苦味が舌を刺した。


りんごは喫茶店を出て、マンションの前まで来た。

辺りは暗くなっていた。見上げて彼の部屋の灯りを見た。
今すぐあの部屋まで行く気にはなれなかった。


その時部屋の灯りが消えた。


二人が出て来ると思い、下がって暗い所へ移動する。

少しして彼と女性が出口に現れて、一緒に歩き出した。


二人はりんごの近くを通りかかる。
暗くて姿は見えないと思った。


しかし、彼は立ち止まった。
そして何事か彼女に声を掛けていたが、彼女はうなずくと立ち去った。


「りんごだね。そんな所でなにしてるの」
声を掛けて彼が近づいて来る。


「今日は広島公演だったね」
「よく知ってるのね」
「りんごのスケジュールはチェックしてるからね。
早く部屋へ入ろう」

「・・・もう帰る」


「馬鹿な事を言うもんじゃない。今来たばかりなのに」
「今来たわけじゃあ無いもん」


「そうなんだ。待たせたね」
りんごの肩に手をやってうながしてマンションの中へ入った。


エレベーターの中でりんごは、

「あの人を一人で帰して心配じゃないの」


「あの子はしっかりしてるから大丈夫。
今はりんごの事が心配だから。連絡もくれないで来たりして
何かあったの?」


りんごは首を振ると、
「今日は広島だから来ないつもりだったけど、
急に会いたくなって・・・来てはいけなかった?」


彼は強く首を振ると、
「そんな事は絶対に無い!何時でも会いに来て良いよ。
別に連絡もしなくていい。だからキーを渡してるのだから」


二人は部屋の中に入って行った。


明(あきら)はりんごを部屋着に着換えさせると、ソファに座らせた。

そしてワインを一本持ってくるとりんごの前にワイングラスを置くと
ピンク色のワインを注いだ。
どうぞという風に手をさし出す。


りんごはグラスと明を見比べると、


「私を酔わせる気?」


明は頭を掻いて、
「参ったなぁ、りんごも二十歳なんだからワインぐらい良いかなと。
それにワインは心身をリラックスさせる効果があるしね」


体はともかく、今は心をリラックスさせる必要があるかもしれない。
りんごはグラス取るとひと口すすった。

「甘いのね」


「そう。このワインは甘口でアルコール度数も低いし飲みやすいよ」

りんごは、もうひと口ワインを飲んだ。
やがて頬がほのかにピンクに染まってくる。


明も自分のグラスにロゼを注ぐとゆっくりと飲み干す。


りんごが切り出した。
「話して」


「あの子、葉月の事だけど、最初から?」

「最初から」



「あの子、葉月と出会ったのは今から十年程前、葉月が十二歳の時だった。
私がもっと若かったら別だけど、その頃はもう三十歳だったから、
そんなに意識はしなかったし、葉月も大人びた感じだったからね。
なんでも、まだ中学生なのに友達から『団地妻』なんて呼ばれたって」



団地妻。 近くで彼女を見たわけではなかったけど、
二十二歳にしては落ち着いた感じでもっと年上に見えた。


「葉月とは、同居はしてなかったけど、何度も会う内にお互い
気心が知れる仲になっていったし、親密な関係になるのに時間は
かからなかった。葉月は心の優しい本当に良い子だったしね」


親密な関係。りんごはワインを注いで、ワインをひと口飲んだ。


「まだ葉月と私の関係を言ってなかったね。
つまり、十年前私の父親が再婚してやって来たのが妻になった女性と、
その娘である葉月だったというわけなんだけど」


「そうなんだ。明さんと葉月さんは義理の兄妹というわけね」

りんごはすこしほっとした。でも、
以前、義理の兄妹の話で最後は二人が結婚するというマンガを読んだ事がる。


「まあ、当たらずとも遠からずだね。お互い一人っ子同士だったし、
小さい頃はお互い兄弟が欲しかったし、葉月は兄が。私は妹が欲しかった。
歳が十八歳も離れてるのは、良い方に作用したみたい。
葉月は私を慕ってくれたし、そんな葉月を私は可愛くてたまらなかった」


りんごは、ワインに手を出そうとしたが、思いとどまった。


「2人だけで一緒に過ごす時に、なにか不思議な感じだった。
出会ったのが葉月が十二歳で、もう思春期を迎えてたし、
私は三十歳だったけど、仕事が忙しくて結婚も出来なかった」


りんごは自分は十二歳の頃は毎日アイドル目指してレッスンを
重ねていたなと思う。


「なにかのはずみに、手と手が触れあってビクッと離れたりした。
もし、二人が義兄妹だったら、どうなっていたかわからなかった」


りんごは顔を上げて明を見た。


「ある時、鏡の中のお互いを見た時があった。そっくりだった。
葉月は父親似だと母親に言われたそうだ。
私もそうだった。


そう。私達は本当の兄妹だったんだ。
葉月の父親は、私の父親でもあったんだ。
そう。私達は腹違いの兄妹なんだ」


思わずりんごは顔を上げて明を見た。 腹違いの兄妹。


「葉月は私にとってこの世でたった一人しかいない大事な血をわけた妹なんだ。
兄妹として過ごした時間は短いけれど、そんな事は関係ない。
私にとって大切な妹なんだ。かけがえのない」


りんごは突然急激な感情が込み上げて、堪え切れずに大粒の涙が流れ落ちた。
声を上げてしゃくりあげた。


明はすぐに立ってりんごの側に行き強く抱きしめた。

「すまない、俺が悪かった。りんごの気持ちを考えもせず
いい気になって、いい年をして、大馬鹿野郎だよ!」


りんごは明の胸の中で首を振って、


「明さんの事を信じてるのに、一瞬疑ったりした私が悪いのよ」


「りんごは悪くないよ。今はりんごだけだよ。
葉月は妹として好きだけど、愛しているのはりんごだけ」


りんごの顔を上げさせて、その唇にキスした。
ようやく、唇を離して、


「葉月は福岡の国立大学に通ってた時はよくここ来てたけど、
今は広島で就職して、今日みたいにたまに来る」


「そうなんだ」
福岡の国立大学。葉月さんは頭が良いんだ。


「とにかく葉月と一緒の所を見られたのが、りんごで良かった」

「なぜ?」

「もし、としこさんだったら、俺は殺されているな」


りんごは声を出して笑った。

「としこだったらやりかねないわ」


「誓うよ。結婚したらとしこさんに殺されるような事は
絶対にしないと誓うよ」

りんごは明の胸に顔をあてながら、

「そうね。結婚したら葉月さんは、私の妹になるのね」

「そう。葉月の方が歳が上でもね。りんごも葉月の事を良く知ったら
きっと葉月の事を絶対に好きになるよ」

「葉月さんって優しそうな感じだったわ」


しばらくしてりんごは、明の顔を見ると、

「すごい気になる事があって、明さんに聴いてみたかったの」

「なに?」


初めて出会った日、大分から福岡のライブ会場へ行く前に
私が連絡した時の事憶えてる?」

「もちろん、忘れようが無いよ」

「私が、もう来なくていいって言われるとしぶったら、
どうしてもダメと言われたら、明さんが出て説明するって言った時の事」


明はうなずいて、

「めちゃめちゃ怒られたよね」

「マネージャーさんが出たけど、普段は優しい人なのに、
もう、カンカンに怒っていて、バカヤロー!!アホー!!とか、
しまいには、どブスー!とまで言われたの、さすがにコノヤロって思った」


明は笑った。

りんごは、
「そうだよね。寝坊して遅れたならともかく、
私が勝手にばっくれて、ライブをすっぽかすつもりで逃げたんだから」


明はウンウンとうなずいた。

「側に誰かが声をかけてたの、たぶんとしこだわ。
それで、来る気があるなら絶対にライブに遅れるな!ってなったの」


「それで」

「もし、あの時もう来なくていい。って言われたら、明さんは
どう言うつもりだったの?」


正直、どう説明するかあの時考えていなかったのだけど、
少し考えて言った。

「りんごを誘拐したけど、反省して開放するからよろしく。
というのはどう?」


アハハとりんごは笑った。
「マンガじゃないんだからー」


ソファ寝転がって笑い続けるりんごの上になると、またキスした。

そして、

「今夜は泊まっていくよね。と言ってもこんな時間じゃ帰りようがないけど」

「そうね。仕方ないから泊まっていくね」


私は、りんごを抱き上げた。
「あれ、なんか前より重くなった気がする」

「それを言わないで・・・最近それが悩みなの」

「だったら、適当な運動をすればいいよ。すぐにこれからしよう」


りんごは、くっくっと笑うと、
「どんな運動なんだか」


りんご五 終り


この作品はフィクションです
実在のアイドルと似た部分、および画像と本文は関係ありません。





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りんご 4




りんご 6