Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご 最終章 四

爆破予告


ジェラード警部の言葉を通訳は、

「今朝市警に電話で爆破予告の通告があったそうです」

ディレクターは眼を剥いて、
爆破予告ですか?!この会場をですか!」

 

「間違いなくこのシアターに時限爆弾を仕掛けたという
爆破予告があったそうです。だから、明日午後に予定されている
コンサートを中止するようにと言っています」

「これは過激派のテロですか?!」

アメリカでは、銃撃によるテロで多数の死者が出る事件が
多発していますが、爆弾によるテロも過去にオリンピックや、
ラソンの会場、地下鉄などで多数の人が集まる場所での
爆弾テロで多くの死傷者が出ています」

 

すぐさま、この会場は封鎖され爆弾処理班を含む多数の警官に
よって時限爆弾の捜索が行われ、
公演の関係者スタッフは、終わるまで外に退避させられた。

 

マネージャーは日本の事務所に連絡を取り、
としこも、ホテルにいるメンバー達には爆弾の事は伏せて
通し稽古は遅れるからホテルで待機してるようにと連絡する。

としこは、突然降って湧いたような出来事に混乱して
ただただ公演が中止されるかもしれない事に
不安と心配でいっぱいだった。


ようやく爆弾の捜索が終了したのは、夕方近くなってからだった。

ジェラード警部が公演のスタッフ達を集めると、

 

「時限爆弾は見つかりませんでした。会場内くまなく、観客席の座席の下もすべて捜索しましたが、見つかりませんでした。
しかし、安心は出来ません。爆弾はこれから仕掛けられるかもしれない。これからやれる事はひとつしか無い。ライブ公演を中止する事です」

 

としこはマネージャーに聞いた、
「もし公演が中止になったら、もうロスでは出来ないのですか?」

マネージャーはうなずくと、
「ロス公演は一度だけだ。スケジュール的にこのまま
帰国するしか無い」

マネージャーは日本の事務所に捜索の結果と、ジェラード警部の
言うように中止するのかその判断をどうするか、
再度を連絡を取った。


やがてマネージャーは戻って来ると、
「日本の事務所は、捜索の結果爆弾が見つからなかったという事は
いたずら目的の爆破予告も考えられるという事で、
公演は出来うるならば、予定通り行いたい。
この公演を楽しみにしているアメリカのファンも
たくさんいるのだから。との事でした」

 

ジェラード警部は、厳しい眼でマネージャーを睨むと、
「もし、このシアターで爆発が起これば、多数のアメリカ人の
ファンが犠牲になり」
警部はとしこを見ると、

「このライブ公演の演者は年若い少女達と聞いたが、
その女の子達をも犠牲にするつもりなのかな・・・」

 

としこは、口を開いた。

「公演が卑劣な爆破予告によって中止せざるをえないのは、
非常な悲しみであり、つらい事です。しかし、
最優先しなくてはいけないのは、アメリカのファンの
安全を第一に考えなくてはいけないと思います。
少しでも危険な事があるのなら、この公演は、
やれないと思います」

ジェラード警部はそのとしこの言葉を聴いて
大きくうなずいた。

 

黙って聞いていたマネージャーは口を開くと、

「その点について日本の事務所の責任者の考えは、
公演は明日の午後とまだ少し時間があり、
それまで再度爆弾の捜索と予告犯の捜査をギリギリまで
行って貰い、爆弾の発見や予告犯の特定がなされたら、
公演は中止します。
爆弾が見つからなく、犯人も特定出来ないならば、
いたずらの可能性がありとして、公演を行いたい。
という事でした」

ジェラード警部はそれを聞いてじっと腕組みをして
眼を閉じて考え込んでいた。

「もちろん、会場の内外を警察によって厳重な警備体制
敷いて欲しい。との事でした」

ジェラード警部はギロリと眼を開けると、

「よろしい。爆弾の再捜索と公演が始まるまでの厳戒体制と
犯人の捜査を、全力で行う事を約束しましょう。
それで安全と判断出来れば、公演を許可します」

 

マネージャーはほっとしたような表情を見せた。
ジェラード警部は厳しい表情でつけ加えた。

「しかし、少しでも危険な兆候が見つかれば、
ただちに公演の中止を勧告します。いや、勧告では無い、
Command!命令です」

ホテルのメンバー達には通し稽古は今夜は無理で、
明日早朝に行うと伝える。

マネージャーはジェラード警部の返事を事務所に
伝えるために行った。

 

としこは、ジェラード警部にもしこの後爆弾が
仕掛けられるとしたら、何処が危ないのでしょうかと、
聞いた。

警部は、
「いい質問だね。会場内は全て捜索した。しかし明日になって
一番危険な場所は客席だ。
今は安全でも明日の公演には、客席にファンが大勢入って来る。
開幕の直前にチケットを持った不審人物が爆弾が入った鞄を
持って座席の下にそれを置いて出て行くかもしれない」

としこはため息をついた。

「ステージからは、少し暗くても客席のファンがよく見えるんです。
鞄を置いて出て行く人がいないか気をつけます」

警部は不審人物がいたらただちに自分に知らせるようにと
携帯の番号渡すと、
「だから、万一爆発が起きた時舞台にいたら前から爆風がくる。

前が一番危ない。姿勢を低くして後ろに逃げなさい」


明はロスの友人と夕食を共にしていた。
明日の結婚式が終わった後はりんごのライブがあるけれど、
出来たら新妻のライブを観たいけど、色々予定があって
観に行けないなと思っていた。

そのアメリカ人の友人は食事の手を置くと、

「ちょっと気になる事があるのだけど」
「なんだい?気になる事って?」

「新聞記者の友人なんだけど、さっき電話で話した時、
あるシアターの前を車で通ったら劇場の前に
パトカーが何台も止まっていて、大勢警官が出入りしてるんだ。
不審に思ってシアターに入ろうとしたら警官に入れないと
止められたと言うんだ。君のフィアンセはロスには
結婚式の他に劇場でライブをしに来たと言ってたよね」

彼はそのシアターの名前を言った。その名前は聞いた事があった。

ただちにとしこに連絡を入れる。
幸いとしこはすぐに出た。

友人の話を言うと、
としこは、少し言いよどんでいたが、
「すみません。今は何も言えないんです。
たとえ明さんでも・・・」

明は背中が冷たくなるのを感じた。
何か異様な事が起きてる。あるいは起きかかってる。

「明日の式が終わっての公演だけど、観に行きたいのだけど」

「ダメです!」

としこの鋭い言葉に、嫌な予感がして、

「いや、どうしても観に行きたいんだ。せめて会場にでも
入りたいのだけど・・・」

としこはしばらく黙っていたが、
「もしあなたの身に万一の事が起きれば、りんごが悲しむわ」

明は声を上げて、
「いや、りんごを絶対に悲しませない!それに、
りんごの身に万一の事が起きた時、その場におれなかったら
俺は死ぬよりつらい」

としこは吐息をつくと、
「わかりました。関係者席に入れるように頼んでみます」

 

つづく。