Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご 最終章 五

Bomb

ジェラード警部達は再度シアターの爆弾の捜索を
念入りに行ったが、爆弾は発見されなかった。

午前0時頃になって、警部達は徹夜で警備をする警官らを残して
いったん市警へ戻った。

マネージャーも心身とも疲労困憊した風で、
ホテルへ戻る事になり、としこに、

「さあ、帰ろう。明日は早朝から通し稽古がある。
少しでも寝とかないと」

としこは首を振った。
「私は残ります。とてもホテルで寝ていられません」

マネージャーは呆れたようにとしこを見たが、
諦めてとしこを残して出て行った。


ひとりになると、としこはステージに立って観客席を見た。
前部にスタンディングのスペースがあるが、その後ろに
座席が並んでいる。

降りて行き座席のひとつに腰を下ろした。
明日の事を考えていた。
何としても明日の公演をやり遂げたい。それだけを願った。

その前にりんごの結婚式が教会である。
結婚式が公演の前に行われるのがせめてもの救いの
ような気がした。

ふとジェラード警部達の座席の捜索の様子を思い出した、
ここの座席は、日本の会場のように座る部分が上がらないで
最初から下がったままだった。

だから捜索の様子は懐中電灯で座席の足元を照らして
見ていた。
としこはふと思った座席の下、裏側の部分はどうだろう、
もし爆弾を座席の裏側に貼付けたらとしたら、
見逃される事があるかもしれない。

としこは立ち上がり通路側の席から座席の裏側に
手を差し込み触って確かめて行った。
一列を終り、後ろの席が千席以上あるのを見て、
一人でやるには大変な事だと思ったが、
たとえ朝までかかったとしてもやらなくてはいけないと
感じた。

 

端から五番目の座席の裏側に手を差し込んだ時、

それがあった。何かが指に触れた。

 

全身が「総毛立つ」という意味を文字通り肌で感じた。
同時に心臓の鼓動が驚くほど高く全身に響くように聞こえる。

爆弾。だと思った。

すぐに思ったのは、それが爆弾だとしたら明日の公演は
中止だと言う事だった。
思わず引っ込めた手をもう一度そろそろと伸ばして
触ってみた。

そんなに大きく無く、厚くも無く角ばった感じだった。
テープのような物で貼り付けてるようだった。

それを取り外して外へ捨てに行く事を考えた。
誰にも知られずに。

でも、いったいこの何も知らないロサンゼルスの何処に
捨てるというのだろう。
もし途中で爆発したら、自分ひとり死ぬだけではすまない。

頭を強く振ってその考えを振り払い、立ち上がり外の警備の
警官に知らせに行く。

知らせると言っても、頭が真っ白になっていて、
ただでさえ英語は苦手なのに、「座席」という単語が
わからない。
何とか身振り手振りで懸命を伝えようとした、
そして、爆弾をボンバーと思い出し、

座った身振りをして、お尻に手をやって
「ボンバー」と言った。

ようやく警官はその意味がわかったようで、
すぐにパトカーの無線でジェラード警部に連絡をとった。

少しして、何台ものパトカーがサイレンを鳴らしながら
到着した。そしてパトカーとは違う小型のバスのような
車から、まるで宇宙飛行士ような格好の二人が降りて来た。

爆弾処理班のようだった。

 

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ジェラード警部がやって来て、
興奮した面持ちで早口で喋り出したが、としこには
ひと言もわからない。
通訳の人が飛んできたので、
としこは深呼吸した後、座席の裏側に手を差し込んで調べたら
何かが貼り付けてあったと説明した。

 

ジェラード警部は、すぐさま部下の警官に指示をする。

「この前の道路一帯を封鎖して通行する車、歩行者らを
通行禁止にしろ!それとシアターのまわり半径
五十ヤード以内の建物の住人を叩き起こして安全な
場所に避難させろ!そしてシアター内の人間を残らず
外に避難させるんだ」

防護服の爆弾処理班がシアターに入って行った。

としこはシアターから離れた外に避難したが、
夜ともなると外に居ると体が小刻みに震えるほどの
寒さだった。

そしてホテルのマネージャーに連絡する。
マネージャーは眠そうな声で返事をした。
寝入ったばかりのようだった。

としこが事の次第を話すと、息をのんで聞いている。
すぐに来ると言った。
外が寒いので自分のパーカーと毛布を持ってきて欲しいと
お願いする。

振り返ってシアターの方を見ると、
雲が切れて月明かりにシアターの高い建物が浮かび上がっていた。

つづく。