Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご 最終章 六

アイドル

 としこが外の寒さに震えていると、
ジェラード警部がやって来て、
ポリス用のジャケットを持って来て着せてくれた。
とても暖かくて、警部の優しさに胸がいっぱいになって
何度も頭を下げた。

 警部はとしこの側に立つと煙草を吸ってもいいかと
たずねたので、
としこはどうぞ。と、うなずいた。

シアター内の爆弾処理には時間がかかっているようだった。
まだ爆弾とはわからないようだけど。

警部はとしこに、ゆっくりとした話し方で、

「あなたは、アイドルなんですね」

「はい。イエス・・・」

警部の意外な質問に、としこは少し戸惑っていた。

 

「あなたは日本のアイドルの、サユ・ミチナガを知っていますか?

何年か前にグループを卒業したと聞いてるけど」

 

としこは警部の「サユ・ミチナガ」と言う名前に驚いて、

「もちろん、知っています!道長さんは同じ事務所で
私達の大先輩で、今では伝説のアイドルとして
私達は非常に尊敬しています。今はアイドルとして復帰

されています」

 

「そうですか。サユは復帰してたのか・・・。

彼女のグループが2009年にこのロサンゼルスの

LAコンベンション・センターでの
ライブに出演した時の事をよく憶えています。
その時私は会場の警備を任されていたのです」

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その頃としこは12、3歳ぐらいの頃でアイドルに
なりたいと夢見ていた頃で、道長沙由さんの事は
憧れの存在だった。

 

「その頃、妻と別れたばかりで」
警部は、「リコン」と日本語で言った。

「娘と同じ年頃のミチナガさんの歌を聴いて、
どんなにかイヤサレました・・・」

 

としこは何度も大きくうなずくと、興奮気味に、
「そうでしたか!それを聞いてすごく嬉しいです」

その時、警備の警官に伴われてマネージャーがこちらへ
やって来た。

ジェラード警部は煙草をもみ消すと携帯用の吸殻入れに
しまって、パトカーの方へ歩いて行った。

 

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としこがマネージャーに起こった事を詳しく話した。

その後は離れた場所からシアターを見ながら

ひたすら爆弾処理が終わるのを待つしかなかった。

警部が着せてくれたポリスジャケットのおかげで

寒さは感じなかった。

 

ようやく、

シアターから宇宙飛行士のような装備の爆弾処理班が
出て来るのが見えた。

腕時計を見ると、午前4時頃だった。
警部達が到着してから、約三時間以上が立っていた。

 

警部は処理班と話していたが、それから帰り際に
マネージャーと、としこに言った。

「分解して処理した結果、あれは単なるスマートフォンだった」

 

としこは心から安堵して、
「そうでしたか・・・でも、なんでスマホを座席の裏に?」

ジェラード警部は、わからないという風に首を振った。

としこは、あれを発見した時の事を思い出した、
その時は爆弾だという恐怖で何も考えられなかったけど、
今思えば触った時何だか、なじみがある手触りだと思えた。
スマホなら手になじみがあるはずだった。
それを警部に言うと、警部は、

 

「いや、たとえなじみのあるスマホに見えたとしても
安全とは限らない。今はライターぐらいの小さい爆弾でも
このシアターのように密閉された観客席でもし爆発したら
数百人の死傷者が出るくらいの威力のある高性能の爆弾が
あるのだから油断は出来ない」

それを聞いてとしこは改めて恐怖を感じた。

としこは暖かったポリスジャケットを脱ぐと警部に丁寧に
お礼を言って返した。

ジェラード警部はうなずいて受け取ると
パトカーに乗り込んで走り去って行った。

 

としこはマネージャーに、
「あの警部さん、道長さんの歌を聴いた事があるって。
10年前に」

「はああ?」


その後、マネージャーはとしこにパーカーと毛布を渡すと、
「もうホテルへは帰る時間も無いし、ここに籠城するよ」

としこはシアターの中に入り、あのスマホが貼り付けてあった
座席の所に行ってみる。

 

あのスマホが貼り付けてあった座席のあった場所は、

前後左右の座席が何台も外されて脇に置かれていたので

ポッカリと円形に開いてるように見えた。

置かれた座席の一つは、復元出来ないほどに

バラバラに分解切断されている。あの座席に違いない。

 

爆弾処理班は、まわりの座席を取り外した後に、

あの座席を慎重にたっぷりと時間をかけて
バラバラに分解切断したのだと思った。
その後、スマホも同じく分解したようだ。

 

入場がが始まって、あの座席番号のチケットを持ったファンが、
自分の座席が完全に無くなっているの知って驚くだろうなと思う。

 

つづく。