Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

元禄の楓

存在


玲奈は広瀬に向かって、

「うちは楓姉さんは、思うには、
お姫様のような気がするんです」

広瀬は思わず笑って、
「お姫様かい。道場で偉丈夫な男共を剣術で
打ち負かす楓さんが、お姫様なのかい」

「だって、お姫様ならお父様や男の兄弟達は皆
武家様ですよね。そんな身内が剣術の修行を
してるなら、自分もやりたいって思わないですか?」

広瀬は首を捻りながら、
「そりゃあ、ありえない事ではないが・・・
玲奈、どうしてそう思ったんだい」

「お店のお客さんなんだけど、話の中に楓姉さんの
名前が出てきたのでつい聴いてしまったのだけど、
なんでも、楓姉さんが大きな武家屋敷へ入って行くのを
見た。と話してたんです」

広瀬は、
「俺はこれでも御家人の端くれだ。北町同心という
役目がら御家人を始め旗本の位の高い武士の
情報や噂を多少なりとも知っている。

剣術の強いお姫様の噂は聴いた事は無い。
武家の娘達は色々制約も多いし、そんなに
銭も自由に使えるわけでも無いのが・・・」

「一度楓姉さんをうちが住んでいる長屋に泊めた
事があるんです。楓姉さん、ご飯の炊き方を知らない
みたいなんです。お屋敷の奉公人が炊事した
ご飯を食べてるみたいな感じなんです。それで
もしかしたらお姫様なのかなって」

広瀬はうなりながら、
「楓さんがお姫様か。う~んありそうな気が
しないでもないのだけど・・・、ところで
その武家屋敷は何処の町なのかい」

「たしか、本郷って言ってました。なんでも
とても大きなお屋敷だったそうで」

広瀬は首を捻りながら
「本郷か。本郷で一番大きい武家屋敷と言えば
加賀藩江戸屋敷だが・・・何とも言えないな」

「そうですか・・・」

「玲奈」
「はい」

「俺は、楓さんは芸子。あるいは京で言う舞妓みたいな
存在なんじゃないかと思ってるんだ。それも、
踊りの師匠なのかもしれない」

「踊りの師匠ですか!何処でそれを?」

「それは、ある時神楽坂の踊りの師匠にある役目で
話しを聴く為会ってた時なんだけど、
外せない用事があって道場で師匠、お裕さんを
待たせてた時で、

終わって戻ると、お裕さんは稽古で立ち会う二人を見てた
のだけど、面を着けた片方を指差して、
「あのお方は殿方なのかい」

と聞かれたので見ると、楓さんだったので、
女性だと答えたら、
お裕さんは納得したようにうなずいた。

お裕は帰りながら、
「あのお人は踊りをやっているね。しかも
相当の名取だね。たぶん踊りの師匠かもしれない」

俺は驚いて、なぜそう思うのかと聞いたら、

「それは手足のさばき、振りを見て、激しい動きの中に
まるで舞うような華麗さがあったからね。
あのお方は剣術でもかなりの使い手なんだろうね」

俺は思わずうなりながら、
達人と言っていいほどです・・・と答えたな」

 

「楓姉さんは踊りのお師匠さんですか」

「それも、踊りの方は現役ではないかな。
まだ若いのだから。
芸は身を助けると言うけれど、女が自立するには
一芸に優れる事は有力な武器になる。

楓さんは時たま、数日か時には一月ほど姿を
見えなくなる時がある。それは見込まれて
何処か地方へ行って踊りに行くのじゃないのかな」

「そうですね。でも、お姫様でもお城のある地方へ
帰る事もあるんじゃないですか」


続く。