Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

疑惑


ピンポ〜ンと玄関のチャイムが鳴ったので
行ってドアを開けると、美貴が立っていた。


確かに家へ来ないかと誘ったのだけど、
一向に来る様子が無かったので今夜は来ないものと
思っていたのだが。

「遅くなってごめんなさい。もう夜遅いし、
迷惑かしら・・・」
「そんなことないよ、さあ上がってよ」
すると奥から、
「亜弥、誰か来たのかい」
パパの声がした、


「あのね、予定外の事なのだけどパパが来てるのよ」
「そうなの、じゃあ私帰るよ、お邪魔だしね」
「大丈夫だって!パパだって美貴を知らないわけでは
ないし、美貴だってパパをよく知ってるでしょ」
パパが顔を出して、
「やあ、美貴ちゃんじゃないの、まあ上がんなさいよ」


美貴は迷っていたが、亜弥にせかされて、
「すみません、夜遅いですけどお邪魔します」


美貴は亜弥の部屋に入って来た。



「もう来ないかと思ってたのよ、よく来てくれたわ。
ちょっと待ってて紅茶か何かを持ってくるから」
亜弥がそう言うと、
「いいわよ、すぐ帰るから」
「何言ってんのよ、もう夜遅いじゃない泊まって
いきなさいよ」


亜弥はそう言うと、ベッドに腰を降ろした。
美貴はそんな亜弥をじっと見つめて、
「なんかそうしてると、まるで自分の部屋みたいに
おさまってるわね・・・」
「当たり前じゃないここは私の部屋だもの」


美貴はつかつかと亜弥の側に行って隣に腰を降ろすと、
「違うわよ!ここは亜弥ちゃんの部屋だよ、
あなたの部屋じゃない!」
亜弥は笑うと、
「この部屋は私の部屋に決まってるじゃない」


「そうじゃない!ここは、私の知ってる亜弥ちゃんの部屋だよ」
「だから、私が亜弥よ、正真正銘の松浦亜弥じゃない」


美貴は強く首を振って、


「だから!あなたは亜弥ちゃんかも知れないけれど、
私の知ってる亜弥ちゃんじゃないでしょ!
あ〜、なんか頭が変になって来たわ、
あなたは別の世界から来た人間なのよ、
姿形は、どっから見ても亜弥ちゃんだけど、
中身は、私の知ってる亜弥ちゃんではない・・・」



「この部屋は私の住んでいた部屋とまったく同じなのよ。
家具もベッドも何もかもすべて同じ。だから最初の日だけは
少し違和感があったけど、すぐ慣れたわ。一週間たった今は
すっかり自分の部屋としてなじんでいるわ」
そう言って亜弥は腰を降ろしているベッドをぽんと叩いた。


「そうなの・・・あなたの住んでいる世界と、今いるこの世界は
何かも同じなのね、環境もそして住んでいる人たちも」
「もちろんよ」
「今この家にいる、亜弥ちゃんのお父さんも同じなのね、
でも、あなたが本当の自分の娘では無いことは知らないんでしょ」


「そうよ、確かに厳密に言うと私のパパではない、
でも、あのパパの娘は亜弥。だから私もあのパパの娘と
言えないこともないわ。
パパも私のことを娘だと信じ込んでいるわ。
当たり前よ。私は松浦亜弥に間違いないのだから」


「あ〜なんだか頭がこんがらがってくるわ・・・。
昼間あなたがこちらの世界に来て、私の知ってる亜弥ちゃんと
入れ替わった理由を話してくれると言ってたわね。
それに、今亜弥ちゃんはどうしてるの?」
「あなたの知ってる松浦亜弥は、急に声が出なくなったの」
「ええ〜?!声が出なくなったって!」


「そう。突然、まったく声が出なくなったの。
こちらのお医者さんも原因がわからないそうよ。
それで松浦は私に助けを求めたの、それで私が別の世界から
やって来て、松浦と入れ替わったの。
声の出ない歌手なんて、歌を忘れたカナリヤどころじゃないわ。
今松浦は私のいた世界に行って声の治療をしてるはずよ。
私のいる世界の方が医学は格段に進んでいるのよ」



「それであなたはこの世界にやって来たわけね」

「そうよ、美貴ちゃんも松浦から聞いてるように
以前松浦が私の代わりを務めてくれたお礼に
今度は私が声の出ない松浦の代役を務めているわけ」


「亜弥ちゃんは声が出るようになればすぐに
帰ってくるの?」
「もちろんよ。それまで私がスケジュールをこなすから
大船に乗ったつもりで安心してって言っておいたわ」


美貴はフンと鼻で笑うと、
「よく言うわね、この前の生放送のあの番組では
大騒ぎだったそうじゃない、一緒に出演した美佳さんから
聞いたわよ、彼女とは時々メールを交換してるの、
生本番中に隣の男性歌手に手を出したそうじゃないの」
「手を出したって、いくら私でも本番中に本番はしないわよ」
「本番中に本番?何言ってるのかわかんない」
「あっわからないならいいの。気にしないで〜、
ちょっと、からかうつもりで、生本番中に太ももを
触らせて上げただけよ」


「その後、美佳さんにも手を出したそうじゃない、
後で彼女から、松浦さんのケータイの番号を教えて
くれってメールが来て往生したのよ」
「どうやら彼女を目覚めさせちゃったようね」
「・・・その後、メンバーにも片っ端から
手を出すというか、キスしまくってるそうじゃないの、
いったいどういうつもりなのよ!」


「それは、何というか親睦を深めるためよ」
「どんな親睦なんだかわかりゃしない・・・あれから
亜弥ちゃんには近づくなと言う指令が飛んでるのよ」
「その指令の元は美貴ちゃんじゃないの」


まだまだ美貴には本当の事を話すのは早すぎる。



ためしに、亜弥は少しジャブを入れてみる。
「松浦からの連絡によると、あちらの医者は声が
出なくなったのは、外部からの影響のせいだと言ってる
そうよ。それも松浦をよく知る人物が原因だそうよ」


「外部からの影響ってなによ」


「黒魔術って知ってる?相手に呪文をかけて攻撃する魔術よ」
「聞いたことあるわ、それがどうしたの」
「松浦は黒魔術をかけられて声が出なくなったというの」


美貴は呆れて笑い出した。
「バカバカしい!何百年前の話しなのよ、聞いて呆れるわ」
「まあ聞きなさいよ、黒魔術は現代でも行われているのよ、
アフリカのカメルーンとマリのサッカーの試合で、カメルーン
コーチが相手チームに黒魔術の呪いをかけたとして逮捕された
のは、つい最近の事よ」
「とても信じられないけど、じゃあ仮に黒魔術が原因で声が
出なくなったという事があったとしても、誰が呪ってるのよ、
誰が何のために亜弥ちゃんを呪ってるというの!」


「それがわからないのよ。私がこの世界に来た理由は
松浦の代役ともうひとつは、松浦を呪っているという人を
捜すためなの。なんでもその呪いを止めさせない限りは
また声が出なくなるそうよ」


「だいたい、その亜弥ちゃんが黒魔術で呪われてるって
言う医者は何者よ、祈祷師か何かじゃないの。とても
信用できないわ」


「そのお医者さんは、黒魔術を研究してる権威でもあるの。
魔術や呪術をかけられた人を治してくれる医者なの。
でも、黒魔術って言っても妖術師や呪術師が大掛かりに
呪いをかけて来るわけでもないの、
たとえば、みかけは平凡な女の子が、何百万人に一人の
特殊な能力を持っていて、心の中で別の人間、たとえば
松浦亜弥に対してちょっとした恨みを持っていただけで、
それが黒魔術と同じ作用をもたらす場合もあるの」


「今、平凡な女の子って言ったわね、まさか亜弥ちゃんに
呪いをかけてるっていう人は・・・」
「・・・松浦をよく知っている女の子だそうよ。とすると、
人物は限られてくるわね。
お医者さんによると、その加害者も呪いをかけてるという
自覚は無いそうよ。心の奥深くの潜在意識が無意識のうちに
松浦に呪いを送ってしまっているそうよ」


「そんな事考えたくもないわ、私の近くにそんな女の子がいる
なんて、信じたくもない」
「本人もその意識は無いのだから、捜し出すのは難しいわね、
心の奥深くを覗かないことにはわからないわね」

「・・・それでどうなの、怪しい人を見つけられたの?」


「それがまだ見つかっていないわ、でも一番怪しいと思われる
女の子なら、いないこともないわ」


「誰なのよ・・・」


「それは、あなたよ」


「はぁ〜〜あ?!!」


美貴は立ち上がって亜弥を睨んだ。
「なんで私なのよ!この私が亜弥ちゃんを呪ってると
言うの!!
何を根拠にそんなふざけたことを言うのよ〜!?」
「あら、怒ったかしら」
「怒るわよ!なんでぇ私が亜弥ちゃんを呪わなくちゃ
いけないのよ!いい加減な事を言うと許さないわよ・・・」
美貴は唇を震わせて亜弥を睨みつける。


亜弥も立ち上がって、鏡台に置いてあった手鏡を取ると
その鏡を美貴に突きつけた。
「ほら、自分の顔をよく見てみれば。怒ると可愛くないよ」


美貴はやにわにその手鏡を強く手で払った、
手鏡は亜弥の手から飛んで下に落ちた。
亜弥が美貴の顔を見つめると、
美貴はその視線をそらして、


「ごめんなさい、でも亜弥ちゃんが悪いんだよ、
私が鏡を嫌いな事を知ってるくせに・・・」
美貴は気がついて、亜弥を見た、
亜弥はうなずいて、


「もちろん、知ってるよ。私のいる世界の美貴ちゃんも
そうだったのだから」
亜弥は手鏡を拾うと、覗き込んで顔を直した。
そして振り返って美貴を見て、
「一度聞こうと思ってたのだけど、美貴は鏡その物が
嫌いなの?それとも鏡に映る自分自身が嫌いなのかしら」


「そんなこと、今は関係ないでしょ!私が聞きたいのは、
なぜあなたが私が亜弥ちゃんを呪ってると思ってるのかという
ことを聞きたいのよ!」
「それが関係あるのよ。鏡が嫌いな女の子がいる。
それはなぜなのか、それが私の考えている通りなら
その女の子が松浦を呪っていることになる。
でも違っていたら、その女の子ではないということになる。
だから、私の質問に答えて」
美貴は困惑して首を振った、


「私だって、美貴が松浦を呪ってるなんて思いたくないわ、
だから、確かめたいのよ。だからさっきの質問に答えてよ、
あなたという女の子の心の奥をもっと知りたいの」


少しの間考えていた美貴は、顔を上げると言った。


「鏡の中の自分を見たくない・・・鏡の中の私は嫌い」