Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

白いドレスの女


その若い女は、切立った崖に立って冬の日本海
見つめていた。死ぬつもりだった。男に捨てられたのだ。


時刻は早朝で、あたりは霧が立ち込めていた。
自分を捨てた男に恨みの言葉を吐きながら、
靴を脱ぎ捨てた。何んで、靴を脱ぐのだろう・・・、
もう、死ぬのだからどうでもいいことなのだけど。

崖下までは、数十メートルはあって岩場に波が
打ちつけている。
ゴツゴツとした岩場を見下ろした。飛び降りれば海に
落ちる前に岩にぶつかって、自分の体は粉々に
砕け散るだろう。
自分にふさわしい死に方だと思った。


その時、白いものが見えた。霧の向こうから誰か歩いてくる。


近づいて来て、白いドレスを着て、つばの広い白い帽子を
かぶった女の人とわかる。
その女は長い髪が腰の辺りまである。
霧の中に浮かび上がった白いドレスの女は人間とは
思えなかった、
死にゆく自分を迎えに来た、亡霊としか思えない。



側まで来て立ち止まった白いドレスの
女を、死ぬつもりの女は睨みつけた。
もう死ぬのだから、何にも怖いものは無い。
二人は向き合った。その白いドレスの
女は背が高かった。


女は、白いドレスの女に向かって自分を捨てた男の
恨みつらみを吐き出した。
自分を裏切り、他の女の元へ去った男への憎悪と、
まだ少しだけ残っている未練を吐き出した。
本当にその男を愛していたのにと、言いながら涙が
溢れ出てくる。


白いドレスの女は、大きな瞳で女を見つめていた。
やがて、きびすを返すと、ゆっくりと霧の中へ
立ち去って行った。


白いドレスの女は、自分を黄泉の国へ連れ去るつもりでは
ないようだ。
女は彼女を見送りながら、生きようと思った。
まだ、涙が出るのなら自分はやり直せるかもしれない。


翌日、新潟のデパートのアート&カラーという展覧会で、
白いドレスの女とよく似た女性の絵を見つけた。



    終わり