やがてサイゾーが報告に戻って来た。
「敵は、十名ほどで鎧を着て馬に乗った武将一騎と
徒士(かち)の兵です」
「そうか、すると物見(斥侯)の兵のようだな、
どこの家中の兵かわかるか」
「旗印を見ると伊勢の北畠の者と思われます」
「なに!伊勢の北畠の兵か、さては信長の次男、
北畠信雄(のぶかつ)の手の者か」
信長は伊勢に侵攻したさい、北畠氏と和睦として次男の
信雄を養子として送り込んだ。
北畠の家督を譲られた信雄は、伊勢の国司だった
北畠具教を殺害して伊勢の実権を握った。
天正7年9月、伊賀の領国化を狙っていた信雄は
伊賀国衆の者が内通して案内を買って出たのを
きっかけに伊賀侵攻を決意したのだが、
それを父信長に相談もなしに、独断で一万の兵を
繰り出して伊賀に侵入して来た。
ほどなく、物見の兵は退いて行った。
まもなく、信雄の軍勢が押し寄せてくるだろう。
三太夫は報告を聞き終わると、じっと考えていたが
顔を上げると、真っ直ぐに亜依のもとへ行き、
亜依の前に膝まづいた。
「加護亜依殿・・・わしらは最後まで戦って
死ぬ覚悟は出来ておる。
しかし、女や子供達は死なせたくない。
今や天の加護にすがるしかない、
わしらに勝ち目はあるのでしょうか・・・」
亜依はどう言っていいかわからず、振り返って
見ると、麻里と目があった。