「そうか、限界か」
「もう、これ以上想いつづけることは出来ないんです、
私のことを何とも想ってないとわかったら、あきらめもつきます。
でも、それもわからない。
私の想いはなにも届かないままなのです」
じっと圭織を見つめていた寺内は、やがて口を開いて、
「そんなに想っているのなら、その彼に、思い切って打ち明けたらどうだ、
当たって砕けろだと思うな」
圭織は大きく首を振った。
「とてもそんなこと出来ません!
口に出してしまったら、すべてが終わってしまいそうで、
とても怖くて出来ません」
「そうか。長いこと想っていたのか」
圭織はうなずいた。
「その想いが本物なら、きっと想いはその相手に通じる思うな、
圭織が想い続ければきっとその相手にも伝わると俺は思う」
圭織は、きっと顔を上げて寺内を見た、
「本当にそう思ってくれるのですか、その言葉、信じていいんですね、
ずっと想い続けていればきっとその想いが通じるんですね。
本当にそう信じていいんですね」
圭織はそう言って寺内の顔を食い入るように見つめた、
寺内は、うなずいて、
「本当にそう思ってる。信じていればこそ救われる想いもある」
圭織は立ち上がった、
「わかりました、ありがとうございました。
その言葉を信じて、あきらめずに想い続けます」
圭織は深く頭を下げると、出口のドアに向かい手をかけたが、
また振り返り、
「寺内さん、どうして結婚しないのですか!
寺内さんなら、いくらでも良い相手がいるはずなのに、
なぜ結婚しないのですか!」
寺内は頭に手をやって、
「困ったな・・・」
「早く結婚してください、そうなれば私はこんな想いをしないですむのに」
圭織はしぼり出すように言うと、出て行こうとした、
「圭織!」
寺内に呼び止められて圭織は振り向いた、
「圭織、わかった。
圭織、俺と結婚してくれ」
圭織は、へなへなとその場にくずれ落ちた。
「からかわないでください、私をからかわないでください、
お願いだから・・・からかうのはやめてください」
圭織は泣きそうになりながら言った、
寺内は、首を振った。
「圭織、俺は本気だ」
圭織の瞳から、涙がこぼれ落ちた。
圭織はドアへ這いながら外に出ると、長い髪を振り乱して駆け出して行った。
その後すぐにマネージャーが入って来て、駆けていく圭織を見ながら、
「飯田さん泣いてるようですが、何か」
「ああ、私が悪いのだ。後で謝るよ」
寺内は圭織の去った方向を見送っていた。
終わり