Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

招待


翌日からまた二人の生活が再開された。
近づく、「儀式」までのつかの間の時間でしかないが、
出来るだけさゆと楽しんでいたいと思っていたが、
もちろん、私の頭の中にはどうやってさゆを救い出すか、
その事を常に考えていた。

前と少し変わった事と言えば、さゆがますますお姫様然と
してきたことだ。私を王子様よりも下僕として扱うように
なってきた、それは私の方からし向けたからでもあるが、
意外にその方がお互い合ってるかもしれない。

さゆは午前のお風呂の時間に、私の目の前で服を脱ぐことに
前のように恥じらいを見せる事はなくなった。 
さゆは脱いだ物すべてを私に渡すと、そのまま浴室に
向かう。もちろんその後を私もお供をする。


二人で浴室に入ると、さっそくシャワーを勢いよく出す。
浴室の会話だけが誰にも聞かれることの無い二人だけの
時間だった。
二人は熱いシャワー頭から勢いよく浴びながら語り合う。

私はさゆの後ろからぴったり体を寄せ、その腰に腕を
回した。そして、上の監視カメラを避けるため、かぶさる
ようにしてさゆの耳にささやいた。

「さゆの誕生日にどんな儀式が行われるの?」
さゆは顔を振り上げて言う、
「さゆみのお誕生日を祝ってご馳走をみんなで食べるの」
「それだけじゃないはずだ・・・」


さゆはいつもその問いに、はぐらかすような答えしか
言わない。さゆは自分の運命を承知しているはずだ、
私の考えが正しければ、さゆは生贄として祭壇に
祭られることを受容しているように見える。

「ここから逃げ出して、僕と一緒に暮らそう。
そしてさゆが大人になったら、結婚しよう。
ここみたいに贅沢な暮らしは出来ないかもしれないけど、
僕が必ずさゆを幸せにしてみせる」

さゆは向き直ると、私の顔をじっと見つめていたが、
何も言わずに私の胸に顔をつけた。
さゆの柔らかく暖かい体を抱きしめた。


その日が終わり、いつものように別れのキスを
さゆとかわして部屋を出た。

エレベーターの中で山口が背を向けたまま、
「いつもシャワー浴びながら、二人で何を話してる」

私は思わずびくっと体を震わして、
「何も話してないですよ・・・」

山口は振り返ると、
「まあいい。さゆみ様は何も喋らないはずだ」


もしかしたら、さゆはマインドコントロールを受けているの
かもしれないと思った、肝心な事を話さないのも
そのせいかもしれない。
私は気になってる事を聞いた、


「この前、僕がこの役目を途中で外される時は、
失格者として処分されると言いましたね、
そうなると、この役目を終えた後でも僕は処分される
事になるんじゃないですか、口封じのために」

山口は首を振ると、
「その心配は無い。役目を終え、儀式が終了すれば
お前は解放される。それに、さゆみ様からお前も
儀式に招待したいと要望が出ているが、それも
承認される見込みだ」

「そうですか。その儀式とはどんなものかそろそろ教えて
くれてもいいのではないですか」
山口は視線をそらすと、
「それは招待された席でわかることだ」


帰りの車の中で、さゆの言葉を思い返した、
『さゆみのお誕生日を祝ってご馳走をみんなで食べるの』
後になって、この言葉はその儀式を象徴していたとわかった。


その日もいつものように、ブリードビルに到着した。
約束の一ヶ月の仕事は残り10日を切っていた。
何か秒読みに入ったようで、私は焦り気味だった。
頭をしぼってさゆをこのビルから救い出す方法を日夜
考えていたが、まったくめどが立っていなかった。

山口と共にさゆの待つ10階に上がり、部屋のドアの前に
立つ。山口がドアの小さな小窓に手をかざすと、ロックが
開くのだ。


「一度聴こうと思ってたのですが、どういう仕組みでドアが
開くのですか、手の指紋か何かで解除するのですか」
「そうではない、私の脳波を感知して開くのだ」

感心して、
「それはすごいですね。では僕でも開くことが出来るのですか」
「それは簡単だ、お前の脳波を登録しておけばいいのだ」
「なるほど」

二人は部屋の中に入った。
さゆが嬉しそうに近づいてきて、体を寄せ私の腰に腕を
まわす。二人は顔を寄せると軽くキスをする。
そんな二人を山口は見ていたが、すぐに背を向けて部屋を
出て行こうとした、
その時声をかけた、


「待ってください!お願いがあります!」
山口は振り返った、


「さゆを、さゆを一度でいいからこの部屋から出して
上げてください、たまには外の空気を吸わせてあげたい
のです」

山口は黙って私を見ている、
「外から来た僕でも、朝から晩まで部屋の中に籠もって
いると、息が詰まりそうになるんです。まして、さゆは
僕の知る限り、一度として外に出てないはずです。
このままじゃ病気になってしまう。どうか、わずかでも
いいですから、外に出してあげてください」

さゆがこの部屋にいる限り逃げ出すチャンスは巡って
こない。さゆが外に出さえすれば、一縷の望みがある。
しかし、山口はきっぱりと言い渡した。


「さゆみ様を外に出すことは、絶対に許されない。
病気については、今日からは毎日医者が診察する事に
なっている」
山口は取り付くしまも無くそう言うと部屋を出て行った。

私の胸に顔を付けていたさゆが、
「私は外になんか出なくても平気よ。友男さんと一緒に
この部屋にいられるだけで幸せなの」
私はそんなさゆの髪を優しく撫でた。

午後になって、医者が診察に訪れた。
傷の手当てを受けた事のあるいつもの男性の
医者ではなく、初めて見る顔の女医だった。

白衣の彼女は、髪は茶色で美人だったが、
少し冷たいような印象を受けた。
その医者にさゆが診察を受けている間、私は部屋の外に
出された。


ぶらぶらと部屋の外を歩いていたが、試みに
階段を降り始めたが、廊下に立っていた、顔見知りの
警備員は何も言わなかった。

私はゆっくりと階段を降りて行き、
各階にはそれぞれ警備員が立っているが、ほとんどが
顔見知りで、私が軽く挨拶をするとうなずくだけで、
咎められることは無かった。

三階まで降りたが、その階には警備員がいなかった。
辺りに誰もいないことを確かめると、何気なく
ドアに手をかけた、幸いロックが掛かってなくドアは開いた。
ドアの向こうは大広間だった。

フロアすべてが大ホールになっているようだ。
まるで結婚式場のようで、テーブルがいくつもあった。

私は、この大ホールで儀式が行われるのだと直感した。
もしかしたら、さゆはここで生贄として祭壇に祭られる
のかもしれないと思うと、思わず唇を噛み締めた。


ホールの外に出ると階段を上って行き、10階に戻る。
ドアの外にしばらく立っていると、ようやく医者が出て来た。
その女医は私を一瞥すると、エレベーターに乗り込んだ。
部屋に入ると、さゆはベッドに寝かされていた。

顔を見ると、目は開けていて眠ってはいないようだった。
しかし、表情はうつろで瞳は天井を見つめたまま焦点が
まるで合ってなく、私がいくら声をかけても反応は無く、
背筋に冷たいものが走るのを感じた。


あの女医は、さゆに何かを施したに違いないと感じた。
ベッドの脇に膝をつくと、さゆの手を握りしめた。

それから一時間ほどして、さゆは頭を動かして側にいる
私の方を向いてほほえんだ。
ようやく、いつものさゆに戻ったのだ。



聖少女 14