衣通姫の物語を終えてさゆを見ると、
さゆは涙を流しながら、
「感動したわ・・・衣通姫は強いお姫様なのね、
たとえ死んでも自分の愛を貫いたんだもの。
本当の兄妹なのに愛し合った王子様と王女様。
私はこの二人が羨ましいわ。
私もこんな風に死にたい」
さゆはそう言うと、私の胸に頭を付けた。
そんなさゆを抱きしめ、髪を優しく撫でた。
さゆの死にたいという言葉を考えていた、
まだ14歳に過ぎないのに、現実に死が迫っている
かのような口ぶりに聞こえる。
「さゆにはまだまだこれから長い人生が待っているよ。
これから素敵な王子様がさゆの前にいくらでも現われるよ」
さゆは首を振って、
「私は若くて綺麗なままで死にたいわ。
それに王子様は今、目の前に現われているわ」
「・・・残念ながら僕は王子様にはなれない」
さゆは首を振りながら、私の胸にすがってくる、
さゆの柔らかくて黒い髪が頬をくすぐる。
私は上のマイクに拾われないように、さゆの耳に
口を当ててささやいた、
「さゆの親兄弟は、今何処にいるの?」
さゆは顔を上げて私を見ると、
「私は生まれて10年立った頃に母や兄弟とは
離れて暮らすことなったの・・・」
10歳と言えばまだまだ親が恋しい年なのに、
親兄弟と離れて暮らさねばならないとは、
どんな事情かわからないが、酷な話だと思う。
「どうして離れる事になったの?お母さんや兄弟とは
会いたいだろうに」
さゆが何か言いかけた時だった、
「その辺で止めておけ」
と上から山口の声がかった。
達也はちらっと上を見ると、
「わかりました・・・」
どうやら、上のマイクは高性能らしい。少々のささやきでも
声を拾うようだ。