Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

フランスパン


いつもの日課を過ごして、やがて夜になり夕食の時間になる
今夜はシチューだった。

さゆの皿には野菜だけだったが、私のシチューには
肉が入っていた。食べたことのない肉だから、たぶん牛肉の
ようだった。他にはパンがでた。
写真でしか見たことないが、どうやらフランスパンらしい。
他に魚介類の料理も何皿か並んでいる。

他の日本人が人間以下の物を食っているというのに
毎日豪華な食事が出てくる。
パンを光男の家族に渡すつもりで残した。

夕食も終わり、帰る時間になる。
さゆは昨日もそうだったが、今日も私が帰る時間になると
寂しそうな表情になる。
帰るため私が立ち上がると、近寄ってきて腕を取った。



「また明日ね。今日も楽しかったわ。衣通姫のお話、
すごく良かった。明日も楽しみにしてるわ」
「それは良かった、じゃあまた明日来ます」

さゆは私の腕を離そうとしないで、じっと私を見上げた。
何か訴えるような瞳だった。
さゆの肩を優しく抱いてその髪を撫でた。
時間になり、ドアが開いて山口が姿を現した。
「では帰ります」
私が入り口に向かいかけると、昨日にように背を向けないで
じっと見送っている。

山口と私はエレベーターに乗り込む。
山口は背を向けたまま言った、
「何度も言うがよけいな詮索をするな」
さゆの家族を聞いた事らしい。



「家族の事ぐらい聞いてもいいじゃないですか、
ただの世間話に過ぎないですよ。誰にでも家族が
いるのだから、僕にもあなたにも」

「それがよけいな詮索だと言うのだ」
「はいはい、わかりました」
「さゆみ様には、お前の家族の話でもしてはならん」
「・・・わかりました」

山口は、私の持っているフランスパンの入った包みには
何も言わなかった。

外に出て車に乗り込む。
私の両親は田舎に住んでいた。
都会よりは地方のほうが食糧事情は多少はましだった。
私はひとりっ子だった。兄弟が欲しいと願っていた。
それもさゆのような妹が。

帰ると、光男の家のドアを叩いた。



聖少女 8