Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

プレゼント


翌日、ブリードビルに到着して10階に上がると
それまで一人だけだった警備員が二人になっている。

段々と儀式の行われる7月13日が近づいて来るに
したがって警備が強化されていくようだった。
そして朝食になると、山口がそのまま残り、一緒に
テーブルに付くとさゆや私と朝食を共にする。

さゆが食事用のナイフで自殺をはかったこともあり、
山口が監視のために付いているようだ。
結局、山口は昼食と夕食も共にした。

山口と一緒の食事は何となく味気ない気がして、
私もさゆも押し黙って食事をとった。



さゆの日課のマッサージも山口に言われて私は
外されてしまい、中年の女性のマッサージ師が
やってきて行った。

それに午後はあの女医がやって来て、毎日さゆを
1時間たっぷりと診察をする。
その後、いつもさゆは約1時間はぼうとなったままで、
さゆと私の二人だけの時間が本当に少なくなって
しまった。

その中で、唯一二人だけの会話と時間が持てるのがシャワーの
時だった。
部屋では私を召使のように扱うところのあったさゆも、
浴室では甘えるようにして来て、二人にとって
貴重な時間だった。

私はいつものように会話を聞かれない様にシャワーを
勢いよく出して、さゆとの秘密の会話を楽しんだ。



「さゆのお誕生日のプレゼントは何がいい?」
「そうね、私の好きなピンク色のお花をいっぱい
プレゼントして」

「よし、ピンク色の薔薇の花を百万本贈るよ」
「素敵。約束よ、指切りして」

二人は小指と小指をからませる。
「嘘ついたら針千本飲ます〜」
さゆは小さい子供のように瞳を輝かしている。

何気なく聴いた、
「さゆは自分の生まれた所を憶えてるの?」
「私は山口県で生まれたそうよ」
「10歳までそこで暮らしたんだね」
「そうよ」

「両親は一緒だったの」
「母とは10歳まで一緒だったけど、お父さんの
事はよく憶えてないの。私が物心つく前には
お父さんは何処かへ行ってしまったの。他に兄と姉がいたわ」


「それで、10歳になって東京へ来たんだね、
それから母親とも離されてこのビルに来たわけだ。
それで僕が来る前までは、儀式を受けるための
教育をされていたのじゃないの」

すると、さゆは私から目をそらすと言った、
「プレゼントの、ピンクの薔薇は楽しみだけど、
百万本も揃えられるの」

いつもそうだった。
私が肝心な事を聞きだそうとすると、さゆは
突然スイッチが切れたようになり、
はぐらかすように全然別な事を言い出す。

その時、急にシャワーのお湯が止まってしまい、
浴室の中が静かになったと思うと、
上から山口の声が響いた。

「シャワーの時間が長すぎる。もう出るんだ」
「はい・・・わかりました」
諦めてさゆと共に浴室を出た。


やがて、午後8時になり帰る時が来た。
いつものようにさゆと別れのキスを交わし、
顔を上げて見ると、いつもは山口一人だけなのに、
今日からは、警備員が後ろに控えていた。

さゆと過ごせる7月10日までの間に、
唯一、さゆを連れて脱出する方法として、山口を
何とか倒して二人で外に逃げ出すことを私は
考えていたのだが、
拳銃を持った警備員がいては、どうにもならない。


それから1週間が矢のように過ぎて行き、
とうとう7月10日になり、さゆと過ごす最後の日を
迎えてしまった。