Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

永久(とわ)の愛


梨華はその日の昼過ぎ、仕事に行く前にあゆみに電話を掛けた。


「あ、柴ちゃん?私。いよいよ明日だね〜
二人で映画を観に行く日。
メールではなんだから、電話したのよ。
楽しみね〜、『キルビル3』キルビル1、2を観たのだから
3は絶対見逃せないわね〜。すっごく楽しみ。
明日、何時頃行こうか、早めに行かないとね。
・・・柴ちゃん、聞いてる?」


梨華ちゃん、あのね、悪いけど・・・」
電話の向こうであゆみは言葉をにごした、
柴ちゃん!まさか、行けないなんて言うんじゃ」
「あのね、まだ決まったわけじゃないけど、
明日、親戚の法事に行くことになるかも」
あゆみは歯切れ悪く言った。


梨華は思わず大きな声を出した。
柴ちゃん!!約束したじゃない、私と映画に行くって!
親戚の法事ってなによ!」
「それが、私の叔父の母方のお婆ちゃんの法事なのよ」
「なによ〜!そんなわけのわからない親戚のお婆ちゃんと
私とどっちが大事なのよ〜!!」


梨華ちゃん、そんなに大きな声を出さないでよ、
実家の母が風邪で行かれないから私が代わりに
行けないかという話なの、まだ決まったわけではないの」
柴ちゃん、明日の映画を私がどんなに楽しみしてるか、
わからないでしょ・・・柴ちゃんと一緒に行くのを本当に
すごく楽しみにしてたんだから・・・」
梨華は泣き声を出した。


「わかったわ、だから泣かないでよ〜まだ決まったわけでは
ないのよ、いい加減にしてよ」
「親戚の法事って本当のことなの・・・」
「本当の事に決まってるじゃない!
なんで梨華ちゃんに嘘を言わなきゃならないのよ!
わかったわ、兄にでも行ってもらうように相談してみるわ、
じゃあもう、切るよ」

あゆみは、たかが映画に行けないぐらいで
泣き出した梨華の気持ちを測りかねていた。



その日の歌の収録に思いのほか時間がかかり、
あゆみがようやくタクシーでマンションに帰りついた時は
深夜の0時近くなっていた。

タクシーから降りると、夕方から振り出した雨が
まだやんでいなかった。
その冷たい雨に体を震わせながらあゆみは足早に
マンションの中に入っていった。


自分の部屋の前まで来て、あゆみは思わず
ギョッとなって足を止めた、
誰かがあゆみの部屋のドアの前に座り込んでいたのだ、


その人はあゆみに気がついて顔を上げると、
「あ〜柴ちゃん!お帰りなさい〜」


梨華ちゃんっ!そこでなにをしてるのよ!」
「なにって、柴ちゃんを待ってたのよ・・・」
「待ってたって、こんな夜中にいったい」
見ると、梨華の髪の毛がべっとりと濡れている。
着ている服も濡れているようだった。
「とにかく中に入って」


あゆみは梨華の肩を抱いて部屋に入った。
梨華の体はガタガタと震えていた。
12月の夜の寒さは相当に厳しい。
あゆみは梨華をソファーに座らせると、
風呂場に行きお湯を出す。

戻ると、梨華の濡れている上着を脱がせると
あゆみのガウンを持って来て着せる。
そして梨華の側に座ると、


梨華ちゃん、いつからあそこにいたの・・・」
「お仕事が終わっても家に帰る気がしなくて、
そのまま、夕方頃に柴ちゃんのところに来たの、
でも、なんだか中には入れなくて、
しばらく外にいたのだけど、雨が激しくなったので、
中に入って柴ちゃんが帰ってないようだから、
ドアの前で待ってたの」


あゆみは何も言えなくて、梨華の肩を抱きしめた。
お湯が溜まったので、梨華を風呂場に連れていく。

梨華は服を脱いだ後、あゆみの手を握りしめて、
柴ちゃん、ひとりにしないで・・・」
そんな梨華を見つめていたあゆみは、服を脱ぐと
梨華と一緒に風呂場に入った。

二人はバスタブの中で何も言わずに体を寄せ合っていた。
冷え切った体に暖かいお湯がしみ込んでいくようだった。


風呂から上がると、
あゆみはパジャマをふたつ出してくるとひとつを梨華に
着せる。たまに梨華はここに泊まることがあるのだ。
その時、梨華のお腹がグ〜と鳴った、


梨華ちゃん、夕ご飯食べたの?」
梨華は首を振った。
「お昼にサンドイッチを一切れ食べたきりなの・・・」


あゆみはため息をついてキッチンへ向かいながら、
「今、何にも無いけど、ラーメンでいい?」
梨華はうなずいた。


あゆみは鍋を火にかけると、袋入のインスタントラーメンを
取り出し鍋に入れる。


やがて、野菜がたくさん入っていて卵を落とした
美味しそうなラーメンが出来上がった。
ソファーの前のテーブルに置く。

よほどお腹が空いていたのか、夢中で食べる梨華を
あゆみはじっと見つめていた。


食べ終わって顔を上げた梨華は、本当に満足した
ような笑顔で言う、
「ごちそうさま。こんな美味しいラーメンは生まれて
初めて食べたわ」


突然、あゆみの瞳から涙がこぼれ落ちた。
梨華ちゃん、ごめんなさい」
柴ちゃん!なんであなたがあやまるのよ」
「だって、今日電話で私が映画に行けないって
言ったことで梨華ちゃんはこんな事に・・・」


梨華は立つとあゆみの隣に腰を降ろして、
「本当は映画なんかどうでもいいの、こうして
柴ちゃんと会えてこうしているだけで嬉しいの」
梨華ちゃん・・・どうしてあんな事をしたの」


「なんだか怖かったの」
「怖いって」
「なんだか柴ちゃんが私から離れていくような
気がして怖かったの」
「そんなこと無いわ。どうしてそんな風に思ったの」
「この頃なんだか柴ちゃんとも会えなかったし、
それに他のメンバーと食事に行ったりしてるのを
聞いてすごく不安になっていた時に、
映画に行けないかもしれないと聞かされて、
柴ちゃんは私を避けてるのじゃないと思って
怖くなったの」


「誰から聞いたのよ、確かに他のメンバーと食事に行ったわ、
でもそれは梨華ちゃんに限らず他の友達と食事に行くのは、
当たり前のことじゃない。梨華ちゃんが気に病むのはおかしいわ。
それに私は梨華ちゃんを避けたりはしないわ。
偶然お仕事が重なって忙しくて会えなかっただけじゃない」


梨華は下を向いたまま言った、
柴ちゃんを取られると思って怖くなったの、
私には柴ちゃんしかいないし・・・」


それを聞いてあゆみは笑いながら、
カップルじゃないんだから、バカな事を言わないの。
最近、梨華ちゃんは変だよ。
もっとも、梨華ちゃんが変なのは昔からだけどね」


梨華はあゆみを睨む振りをして、
「どうせ私は変な女だから」
そう言ってあゆみに身を寄せかけてくる。
「ほんと梨華ちゃん子供みたいよ」
あゆみも梨華の肩を抱いた。