Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

アイドルは悪魔の子供 七

モーニング娘。秋ツアーの初日の幕が開いた。

新加入の、あいこ、沙希、亜矢の三人は初舞台の
袖で抱き合っていた。
「頑張ろうね・・・」
沙希と亜矢は緊張と感動で涙ぐんでいた。
あいこはそんな二人を優しく抱きしめた。

リーダーの誉は三人を感慨の思いで見詰めた。
新加入の三人、特にあいこにはここまでようやく
漕ぎつけたという感じだった。

一時はツアー参加する事ことさえ危ぶむまれていた。
それを脅威の身体能力で乗り切り、それ以外でも
サブリーダーのさや樺は、あいこの事を、
「あの子は人生三周目だね。頭がすごくいいし、
最年少とはとても思えないよ」

最初は歌やダンスはまるっきりダメだったが、
それ以外の事は、リーダーの自分の出る幕は
なかった。同期の沙希が言うには、

「リーダーにこんな事を言うのは失礼だと
思うけど、あいこには自分も亜矢も随分
助けられました。
あいこは他人の心が読めるんです。
私達が身体の痛みや、悩みがあると、
すぐに気が付いてくれて、それとなく
的確に助言してくれるんです」

時間になって、メンバーは円陣を作り誉が
「しょっいいーぃ!!」と歓声を上げて
ステージへ飛び出して行く。

演目が進み、クライマックスの「虹を越えろ」
の前のMCになった。

MCは誉と新加入の三人で行う。
あいこは初めてのライブツアーとは思えないほどの
受け応えで話も面白くファンや同期を笑わせる。

先輩メンバーのものまねが上手く特徴を捉えていて
感心する。リーダーの誉のものまねを面白おかしく
やって観客席を大いに笑わせる。

やがて照明が落ちて、「虹を越えろ」のイントロが
始まる。暗い中をあいこが上手に下がって行く。

誉やメンバー達の間にさっと緊張が走るのが感じられる。
この後起こる事はメンバーとスタッフ以外は誰も
知らない。

メンバー達に徐々にセンターへ移動して行く。

その時が来たので誉はあいことからむため
上手の方へ移動して行く。
白い衣装のあいこが登場して来た。

誉はあいこの手を取って一瞬見つめ合う。
あいこは腕の中でクルリとターンをする。

そして誉はセンターへ向かいメンバーと合流する。

その時スポットライトは虹色の光を点灯させ、
集合しているメンバーの上空で両側から交差する。
その瞬間音楽は止まり、一種異様な静寂が訪れる。

あいこは数歩の助走を始め、飛ぶため踏み切ると
音楽が始まり、
あいこはかろやかにふわりと浮き上がり飛行を
開始する。

首を強く上向いて見上げるメンバーの遥か上空を飛び
その頂点に達し腕と脚を一直線に伸ばしたあいこの姿を
虹色のスポットライトが捉え、

あいこが柔らかく着地した瞬間、観客は息を吞み
声も無い。あいこが笑顔で両手を広げて挨拶をした時、

奇跡の瞬間を目撃した会場内は割れんばかりの
大歓声に包まれた。

初日の前までは、地方公演の前売りチケットが一割程度の
売り上げが、初日が終わると同時に各地方公演の前売り
チケットを求めるファンが殺到して、
地方公演当日では、当日券を求めるファンの列が延々と
何重にも出来ていた。

ただただ、あいこの奇跡のパフォーマンスを観たいがために。

モーニング娘。秋ツアー公演の最終日の武道館公演を
数日前に控えたある日、
事務所の会長室の部屋から出て来たあいこの後ろ姿を
見ながら、誉は会長室に飛び込んだ。

少しして会長室から飛び出した誉は、あいこを追って
走って行く。

あいこは後ろから激しくぶつかるように抱きつかれて
振り返った。リーダーの誉だった。

誉はあいこを強く抱きつきながら言った。

「行かないで!!あなたを失いたくないーー!」