麻里と忍猿のタカシは人目につく昼間は休み、
夜になると一気に走って、翌朝長浜に到着した。
長浜城は、秀吉がまだ木下藤吉郎と名乗っていた頃、
浅井長政の小谷城攻めに戦功を上げ、信長より浅井の領地を与えられ、
今浜に城を築城して長浜と改め、初めて城持ちの大名に出世して羽柴秀吉
と名乗り、言わば、秀吉にとって後の礎を築いた城でもある。
安土に居る織田信長の敵は周り中にいる。特に近江の北方の加賀、
越中を支配下におく上杉謙信は最大の強敵だ。
家臣の秀吉が固めている長浜は、北の抑えとして重要な拠点で、当然城の警備は
厳重である。
麻里はその様子を見て、夜になるのを待つことにした。
秀吉はおねの要望で、希美の言う東京とは東の相模、
武蔵の国辺りだと見当をつけ、そちらへ希美の父母を
捜すための人を出した。
そして、おねには希美の父母を見つかるまで希美を手元に
置いておくと言い渡した、
もちろん、この16世紀の戦国時代に希美の父母が存在
するはずが無くて、秀吉もそれはうすうす感づいていて、
希美を手離したくない一心からの言葉だった。
秀吉は毎日のように希美を側に置き、話を聴いた。
希美が話してくれる21世紀の街、人、車。そして
テレビなどの事は秀吉には到底理解出来ない事柄だったが、
秀吉はうんうんとうなづいて聴き入っていた。
自分は歌手だと言って希美がミニモニ。の曲を歌うと、
その今まで聴いたこともない歌に秀吉はおねや腰元たちと
手を打って大喜びで笑い転げていた。
秀吉は希美が可愛くてたまらない様子だった。
信長の命により、中国攻めの出発の日が迫っていた。
殺伐とした戦場に赴けば、大将の秀吉とていつ命を落とさないとも限らない。
そんな秀吉にとって、希美の明るい笑顔はやすらぎだった。