Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

二人の梨華

夜、俺とリカが家に帰ろうと車を走らせている
時だった、
前方に車が一台止まっているのが見えた。
男がタイヤの前にかがんで様子を見ている、
隣には女性が心配そうに立っていた。


俺はその車の後方に車を止めた。


「どうされたのですか」


声をかけてみると、
男性は振り返って、


「いや、急にタイヤがパンクしたらしくて
困っているんです」



俺は車から降りて、

「それはお困りですね、修理を呼んだのですか」


「ええ、一応呼んだのですが、それを待つにしろ
私がスペアタイヤと交換するにしろ、時間がかかり
そうです」


すると女性が、


「あの〜どちらの方へ行かれるのですか・・・」


俺は行く先を言った。


「それなら、途中までで良いですから乗せて行って
頂けないでしょうか、時間が無くてどうしても早く
行かなくてはならないのです。タクシーも中々
つかまらなくて」


「ええ、いいですよ。どちらへ行くのですか?」


彼女は、地名と放送局の名前を言った。


街灯に照らし出された彼女を見た。
俺は彼女のその顔とその声で、やっと彼女が
誰だか気がついた。


彼女は、元ハッピー・ドリーム。の石川梨華さんだった。


行くと返事をした後では断るわけに行かなかった。


俺は彼女と車の所へ戻った、リカが助手席から出て
車の側に立っていた。


リカは帽子をかぶっていて顔はよく見えない。
俺が後部座席のドアを開けて石川さんを乗せた、
すると、リカが続いて 一緒に乗り込んでしまう。


俺は、これはまずいと思ったが仕方なく
前の運転席に乗り込んだ。


俺はバックミラーを見た、
まるで、これは神様のいたずらなのか、
単なる偶然とは思えない事態になっていた。


後部座席には、石川梨華さんと、
その分身である、クローンのリカが並んで
腰掛けている・・・。


リカと暮らし始めて半年になる。
リカは、石川梨華さんのDNAから再生された
クローン人間なのだ。


リカは、紆余曲折の末に俺と一緒に暮らすこととなった。
充実した毎日を送っている。


会社を辞めて、安アパートを引き払い今のマンションに
越していた。
というのは、前から描いていた漫画を時たま出版社に
持ち込んでいたのだが、クローンのリカをヒロインにした
漫画が採用されて、それが大当たりで、たちまち俺は
売れっ子の漫画家になれたのだ。



俺は石川さんに声をかけた。


石川梨華さんですよね、ハッピー・ドリーム。の頃
からファンだったんです。お会い出来て嬉しいです」


「そうなんですか、ありがとうございます」


ライブには何度も行ったが、こんな狭い車の中で
同じ空気を吸えるなんて、少し興奮してきた。
よけいなのが一緒だが・・・。

そのリカが石川さんに声をかけてくる、


「あたちも、梨華ちゃん大ちゅきなの〜」


ミラーを見ると、リカが石川の腕を取り、体を
寄せてきている。

石川さんは、ちょっと驚いたようにリカを見た、


俺がテレビやDVDで梨華ちゃんをよく見るので
リカも自然と好きになっていったようだ。


「あたちも、リカってゆうの」


「まあ、そうなの・・・」


石川さんはリカの舌足らずの子供っぽい喋りかたに
戸惑っているみたいだ、
見かけの年齢は自分と同じくらいに見えるのにと
思っていることだろう。


車内は暗く、帽子をかぶったリカの顔はよく見えない
はずだが、顔をよく見たら驚くことだろう、
自分と同じ顔の女の子を見ることになるのだから。
声も同じだということは、舌足らずの喋り方に
惑わされて、まだ気がついてないみたいだ。


リカは、外見は石川さんと同じ20歳の女性なのだが、
中身は、まだ2、3歳の幼児と変わらないのだ。


最近のリカの成長は著しくて喋ることもだいぶ
話せるようになったが、やはりまだまだ子供なのだ、


「ねえ、梨華ちゃん〜テレビみたいに歌ってよ〜」


とリカは石川さんの腕を取ってせがみだした、


「リカ!よさないか!石川さんが困ってるじゃないか!」

俺はあわてて言った。


「いえ、いいんです。リカちゃん、ごめんなさい、
ここでは歌えないの」


「すみません、妹なんですが子供っぽくて
困ってるんです・・・」


外では、リカは妹ということにしてる。


石川さんは俺に向かって、


「失礼ですが、妹さんはおいくつなのですか?」


すると、リカは指を3本だして、


「あたち、みっつなの〜」


「はあ??」


俺は大あわてで、


「違います!リカは、その・・・18歳です!」


この間、リカに年はみっつだと、冗談半分に
教えたことがあったのだ。
それをリカはおぼえていたようだ。 
俺は思わず冷や汗を拭った。



リカは石川梨華さんにぴったり寄り添っている。
二人の間に何かを感じとっているみたいだった、
石川さんもそんなリカの肩に手をまわしている。


ふとミラーを見ると、リカの帽子が落ちている、
その帽子を石川さんが膝に置いていた。


果たして、石川さんが自分のクローンが存在する
ことを知っているのかどうかわからない。
それを知った時、どう思うのだろうか。


リカは今は何もわからない。


車は目的の放送局の前に到着した。
俺は車を止め、すぐに降りて後部のドアを開けた。


梨華とリカは寄り添って座っていた。


俺は手を差し伸べた、すると、
手前にいる石川さんが手を伸ばすより早く、
リカが手を伸ばしてきて、俺の手をつかまえた。


二人は車を降りた。


「送って頂き本当にありがとうございます」


石川さんは頭を下げた。


「いえ、ついでですから、それに石川梨華さんを
送ることが出来て、友達に自慢が出来ます」


石川さんはリカの方を向いた、建物の明るい灯りが
リカの顔を照らし出していた・・・。


梨華ちゃん、バイバイ〜」


リカは無邪気に手を振っている。


石川さんの表情が一瞬凍りついたように見えた、


無理も無い、自分自身と寸分違わない分身
そこに存在したのだから。


しかし、決定的に違うものがひとつだけあった、
石川さんはリカの手を取ってまじまじと見つめた、
そしてもう一度リカの顔を見つめた、


「あなたは、肌が真っ白いのね・・・顔も手も」


石川さんは後ろ髪を引かれるように、何度も
振り返りながら、放送局の中へ入っていった。


気がつくと、リカは俺の手をしっかりと握っていた。


また車を走らせて帰途に着いた。


もう二度と、リカを石川梨華さんに会わせたく無い。
今は何もわからないが、将来自分がクローン人間だと
知ったら、どんなにかショックを受けるだろう。


そんな思いは絶対にさせない。


        
        終わり