Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

一日の終わり

やがて壁のデジタル時計の数字が午後7時を示していた。
そろそろ帰る時間だった、その前に夕食がある。
やがて料理が運ばれてくる。
今日の夕食は中華料理だった。
最後に、私の前に注文していた鶏の腿焼きが置かれた。
飴色に焼かれた2本の腿焼きだった。
さゆが微笑みながら私の食べるところを見つめている。


「どぉ、美味しい?」
「ええ・・・美味しいです」


確かに美味しいに違いないのだけど、あの子供の頃に
食べた時の天にも昇るような気持ちにはなれない。
あの時とはなにかが違うのかもしれない。
結局私は腿焼きを一本だけ食べてもう一本は
食べ残した。


今日一日、朝昼夜と豪華と言える食事が出てきて、
それまでいつも腹を空かせていたのがウソみたいだった。
残った腿焼きを見つめた、ほとんどの人間が飢えていると
いうのに、自分はなんと恵まれていると思わざるをえない。
それを見ていたさゆが声をかけてくる。


「もう食べられないのなら、お家へ持って帰ればいいわ」
「・・・じゃあそうします」
家には食べる物は何も無かった。
ナプキンに腿焼きをくるんでGパンのポケットに入れる。

私はちらっと上のカメラとマイクに視線をやった、
もし、帰る時に咎められたらその時だ。



やがて午後8時近くになり帰る時間になる。
私は立ち上がった、
さゆは下を向いて腰掛けたままだ、


「じゃあ今日はこれで帰ります」

声をかけると、ぱっと顔を上げたさゆは
立ち上がって近寄って来る。

「今日は本当に楽しかった・・・また明日も来てくれるのね」

「もちろん、また明日午前8時に来ます」

さゆはうなずいて、
「明日のお姫様のお話、とってもとっても楽しみにしてるわ」
私も笑顔でうなずいた。


その時、ギギギィーと音を立てて出入り口のドアが開いて、
制服の男が姿を現した、帰る時間になった。


さゆは私の手を取りじっと見つめてくる、
突然泣きそうな表情になり、すがるような瞳で私を見る、
それを見て胸がつまりそうになり、私は思わず腕を伸ばし
さゆの頬に手のひらを当てた。
さゆはその手のひらに自分の手をかさねた。


私が手を離すと、さゆはくるりと背を向けた。
制服の男にうながされて部屋を出た。
ギギギィーガシンッとドアは閉まり、もう中からは絶対に
開けられなくなる。


エレベーターに向かいながら、辺りを見回した、
どうやらこの十階のフロア全部がさゆの居住区に
なっているようだった。
さゆは、このビルでは特別な存在らしかった。


制服の男とエレベーターに乗り込む。
彼は黒い制服に身を包み、見たところ40代くらいに見えた。
体はがっしりとした感じで、私よりも背は少し低い。
唇がふっくらとして女性的なのが意外な感じがした。
エレベーターが動き出した時、男が言った、


「失格者になりたくなかったら、よけいな事を言わない
ほうが身のためだ」


私は思わず彼を見た、
「お前は何も考えずにさゆみ様のお世話をしていれば
いいのだ。よけいな事は一切言わずに」
さゆに失格者の事を話したことを言っているようだ。
「外であのような事を言ったのなら、ただちに失格者に
なるところだ。しかしお前はさゆみ様のお気に入りだから
助かったのだ」
「それはどうも」


さゆみ様。どうやらさゆは彼にとって高貴な存在らしい。


「このビルは政府の所有なんですか、あのさゆみという
女性はどういう人なんですか」
その問いに、彼はじろりと私を見ると、
「だから、そんなよけいな詮索を一切してはならん!
お前は黙ってさゆみ様のお世話をしてればいいのだ」




私はしぶしぶうなずくと、
「わかりましたよ。そのようにします」
毎日豪華な食事が出来て、ただ一日中女の子の相手をして
いればいい。こんな美味しい仕事を逃す手はない。


彼は私のGパンのポケットがふくらんでいることに
気づいて、
「何を持っているのだ」
私はそれを取り出して見せた、
「夕食の残りの腿焼きです。家には何も無いので
帰ってから食べるつもりなのですが、いけないですか」


彼は少し考えていたが、
「いいだろう。ただし他人に見せないで自分一人で
食べるのなら許す」
「それはどうも」

ビルの外に出ると、車が待っていた。



聖少女 5