Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

儀式


ブリードビルに到着すると、待っていた山口と共に
さゆの部屋に入った。
さゆはベッドで眠っていた。
山口の顔を見ると、彼は毛布をまくりさゆの
左腕を示した。
さゆの左手首には包帯が巻かれていた。

「さゆみは今日の朝、食事用のナイフで自分の手首を
切りつけたのだ。
今朝になって、お前が来ない事を知り、朝食の時私が
目を離した隙に自殺をはかったのだ」


ベッドの脇にひざまずいてさゆの寝顔を見つめた。
すべては自分のせいなのだ。


「幸い、ナイフは血管をはずれていて出血も大したことは
無かったので命に別状はない。しかし、問題は精神的に
深い傷を負っていることだ」


自分が側についていればこんな事にならなかったと思ったが、
しかし、さゆが自殺をはかった原因は自分にあるとしか言えない。


山口は私をソファーに座らせると、話した。

「この事について上層部の考えは、自殺の原因は
お前にあるとして直ちにお前を外して、場合によっては
さゆみをこの『儀式』から除外するというものだ。
さゆみがこのような精神的に不安定な状態では、
とてもこの先続けられないと思っているようだ」

「僕を首にするという事ですか」

「解雇などという生やさしいものでは無い。
『儀式』が行われる前にお前を外すということは、
知りすぎているお前を失格者として処分することだ」

「僕は何にも知らないし、何も知らされていない!」

「上層部はお前は十分に知りすぎているから、放免すると
この事が外部に漏れると考えている」

私は首を振りながら、
「失格者として処分ということは、銃殺されるという
ことですね・・・」
山口は私を見たが、否定はしなかった。


「さゆみが除外されるということは、さゆみの担当者の
私も責任を問われて、お前同様に処分されるという事だ」

「それはお気の毒な事ですね。
それで僕らが助かる道はあるのですか」

山口はうなずくと、
「もちろん、まだ決定したわけではない。
私は上層部に、さゆみが自殺をはかった原因がお前に
あったとしても、さゆみの不安定な状態を回復出来るのは
お前しかいないと伝えた。
それはお前とさゆみがまだ信頼関係を保っている事が
前提だが」


ふと、山口が『さゆみ様』と呼ばないで、
さゆみとだけ言っていることに気がついた。


「それで、お前を呼び寄せて1日だけ様子を見ることに
なった」

「そうですか」
私は山口の言った言葉が気になった、

「さっき、『儀式』と言いましたね。それは、まさか
『Ritual abuse』の儀式の事じゃないでしょうね」

「・・・それはどういう儀式なのか」

私は山口に説明した、
『Ritual abuse』 悪魔崇拝の儀式で行われる児童虐待
それは昨日、図書館で調べた事柄だった。


山口はじっと私を見ていたが、

「違う。虐待など無い」
と、きっぱりと言った。


確かにこれまでのさゆは、虐待などされていない。
むしろ、大事にされている。
しかし、生贄にされる者は生贄の祭壇に上がるまでは
大事にされるはずだ。

さゆと二人だけにして欲しいと頼むと、
山口はうなずいて出て行こうとした、
その背中に私は声をかけた、

「あなたは、なぜ僕とさゆがまだ信頼関係を保っていると
思ったのですか。さゆは僕に絶望して自殺をはかったのかも
しれないのに」


山口は振り返って、
「お前が来る前、さゆみがうわ言でお前の名前を
呼んだのだ。『友男さん』と」

山口は私がさゆの事をどう思っているかは問わないで
部屋を出て行った。