Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

人魚姫

「そう、お勉強。友男さんは優秀な大学生なんでしょ、私に色々教えてよ」
「優秀かどうかわからないけど、お望みなら教えますよ」
「でも、数学や化学とか難しいのはパスよ、私にも理解出来るような
お勉強を教えてね」


「僕も理数系はあまり得意ではないのだけど、好きなのは歴史の日本史かな、
それでよかったら」
「私も歴史は好きよ、歴史のお話をして。でも難しくないのを」
「いいですよ。さゆみさんにもわかりやすい歴史の話と言えば、じゃあ、
昔のあるお姫様のお話なんかどうですか」

「いいわね!お姫様の話をして。でもそれって童話じゃないの?」
「違います。ちゃんとした古代史の話ですよ。
ところで、さゆみさんはお姫様と言うと誰が浮かびますか」

「たくさん知ってるわ。まず、シンデレラ・白雪姫・眠り姫・人魚姫
かぐや姫・親指姫。こんなところかしら」
「どのお姫様が好きですか」
「人魚姫が好き・・・」


さゆの好きな人魚姫は、一番不幸なお姫様だった。
かぐや姫以外のお姫様はそれぞれ王子様が現われて幸せになる。
かぐや姫は、言い寄ってくる王子様達に無理難題を出して
結果的に追い払ってしまう。
しかし、かぐや姫だって故郷の月に帰ることが出来てある意味
幸せなのかもしれない。


しかし、人魚姫は海よりも深く愛していた人間の王子と
結ばれることなく、はかなく海の泡となってしまう。


私には、さゆが人魚姫と自分とを重ね合わせているような気がした。
人間になりたくてもかなえられなかった人魚姫と。


さゆがせかした、
「早くそのお姫様の話をして」
「しようと思ったけど、実は少しうろ覚えなので今日帰って
もう少し調べて、話しは明日するという事でいいですか」


さゆは少し不満そうだったが、

「残念ね、でも楽しみは残しておいたほうがいいわ。
明日、楽しみにしてるわ」


午後、さゆはジャージに着替えてトレーニングスタジオに
向かった。トレーニングスタジオは広かった。
三、四十人の人間が楽にトレーニング出来るほどの広さで、
それにバレエのスタジオのように壁一面が鏡になっていて、
手でつかまるバーも付いている。



さゆはゆっくりとスタジオ内をウォーキングして行く。
時々立ち止まってストレッチをするぐらいで、もっぱら
歩くことが主だった。
私もさゆに付き合ってスタジオ内をウォーキングする。


さゆは私に寄って来て連れ立って歩く。
さゆは胸ほどまである長さの髪をかき上げながら、
「友男さんは女の子のどんな髪型がお好きなの?」
「・・・後ろでひとつに縛ってたらしたのが好きですね」
「ああ、ポニーテールのことね」
「そうですね」


さゆはジャージのポケットからゴムの紐を取り出すと
長い髪を後ろにまとめ、やや頭の上の方で縛った。
前髪は切っていないので額があらわになる。


さゆは私の方に向き直る。


「これでどうかしら」
「・・・いいですね」
「可愛く見える?」
「ええ、すごく可愛いですよ」


ポニーテールよりもさゆの額に目がいってしまう、
額を出すとよりおさなく感じる。


またウォーキングを続ける。
ようやくさゆが終ると、
しばらく歩き続けて体全体にうっすらと汗をかいた私は
さゆに断ってシャワーを使わせてもらうことにする。
家ではガスを制限されているのでお風呂は3、4日に一度
シャワーを使うだけなのだ。


ここのシャワーは栓をひねるだけですぐ熱いお湯が出る、
家では水しか出ない。
ガスの使える時間でもぬるいお湯しか出なくて寒い思いをするのだ。
ふとバスルームの上を見ると、マイクらしい物がある。
それにマイクだけでなく、カメラらしい物も見えた。


別に見られても平気だったが、嫌な感じではある。
後で確かめて見ると、各部屋はもちろんのこと、トイレにも
マイクとカメラが仕込んである。


それらのカメラは私が変な事をしないか監視する意味も
あるのかもしれないが、大半はこの部屋の住人である、
さゆを監視しているものと思われた。


シャワーを終えて体を拭きながら、さゆの事を考えた、
まるでさゆは囚われの姫君のようだった。
しかし、さゆ自身はそんなことをまったく感じさせないのだが。