Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

素顔


2日目、迎えの車でブリードビルに向かった。

午前8時、ビルに入るとあの制服の男が待っていた。
うながされてエレベーター乗り込む。
思い切って聞いてみる。
「差しつかえなかったら、お名前を聞かせてもらえますか」

彼は、私を見て少し考えていたが、

「・・・山口という名前にしておく」
「それはどうも。山口さん」
本名は教えないつもりらしい。

さゆの部屋に入ると後ろで重々しくドアが閉まる。
立ち止まって待ったが、さゆは現われない。
まだ眠っているのかもしれないと思い、寝室に行ってみる。

寝室に入ってみると、さゆはアラビア風の四角に柱がある
豪華なベッドに眠っていた。
さしずめ、さゆはアラビアのお姫様というところか。
声をかけようとしたら、さゆは敏感に目を覚ました。


ゆるゆると起き出してくる、
「あら、王子様がキスをして起こしてくれたの」

笑って、
「まだキスはしてませんよ」

さゆは腫れぼったい目をこすりながら、
「素顔を見られちゃったわね。あんまり見ないで」
「素顔も可愛いですよ」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」

ちょっと恥ずかしそうな笑顔を見せる。
そう言えば昨日はうっすらと化粧をしていたようだ、
素顔のさゆは子供っぽく見える。

すぐに朝食になる。
さゆは白のネグリジェのままテーブルにつく。
朝食は和食が出た。
湯気を立てたご飯が前に置かれた。


米のご飯を食べたのは、もう忘れるほど昔のような気がする。
かっては日本人の主食だった米を、現在の日本人は
ほとんど口に出来なくなっていた。

米の生産を約十分の一に抑えて空いた田畑を
人口増加の策として住宅にしてしまった。
食糧の9割を輸入に頼った政策はいずれ破綻するのは
目に見えていた。
穀物のほとんどをアメリカからの輸入に頼った結果は
悲惨な事態に陥った。

アメリカの農業のほとんどは、地下水を汲み上げて必要な
水を供給していた。しかし、その方法には未来が無かった。
その恐れていた時がやって来た。
地下水が枯渇したのだ。


加えて、地球温暖化の干ばつが被害を拡大させた。
深刻な穀物の不作が続き、わずかの穀物は自国の
人間に回すため、アメリカ農務省は穀物の輸出を
大幅に制限した。
米、麦、大豆などの輸入がほとんどストップして
大部分の日本人は飢えるしかなかった。

ご飯をひと口ほおばり、お味噌汁のお椀を取って
すすった。懐かしい味だった。
他に海苔が出ていて、小皿に醤油が入っていた。
大豆の輸入がストップしたので味噌、醤油はどれも今ではめったに
食べられなくなっていた。

「ご飯のお味はどうかしら」
「・・・美味しいです」
「そう良かったわ。お米は私も好きだけど、去年は
不作だったからめったに出てこないの」
「そうですか」

朝食が終わり、ひと息つくとさゆはいつものように
お風呂に入るため、ネグリジェをあっさりと脱ぐと
下着だけになってバスルームへ向かいかける、
途中振り返ってこちらに目をやる。
私は知らん振りをして目をそらす。
一緒にお風呂に入るつもりは無い。


やがて、風呂から上がり体にバスタオルを巻いただけで
さゆが現れると、そのまま大きなソファにうつむけになる。
マッサージを呼ぶと思っていたら、違った。

「友男さん、今日からあなたがマッサージをして」
そう言えば、昨日そんなことを言っていたの思い出す。
「どうやればいいのですか」
「昨日マッサージを見ていたでしょう、あの通りに
やればいいの。難しいことはないわ、ただ優しく
揉んでくれればいいの」

ソファのさゆに近づいたが、どうやればいいかわからない、
昨日のマッサージは見ていたがなにしろ
マッサージなんてほとんどやったことがないし、まして
相手は女の子なのだ。


「早くやってよ〜」
さゆがじれて言う。

困っていると、
「なにも難しい事はないのよ、ただ私の全身を
手のひらで揉んでくれればいいの。さあ、やって」

意を決してまずさゆの肩に手をやって揉み始める。
「そう、それでいいの。私の体をくまなくマッサージするの、
あ、もう少し優しくやって・・・」

うなずきながら、さゆの体を揉んで行く、
私の手がタオルを巻いた背中にかかると、さゆは
手を下の胸の辺りにやって、タオルを外してしまう。
思わず手を止めると、

「手を止めないで続けて。タオルの上からではなく、
直接手でマッサージする方が良いの」


むき出しになったさゆの背中を見て私は逡巡したが、
観念してマッサージを続けることにする。

続ける気になったのは、さゆの態度だった。
私に肌をさらしても、恥ずかしがるでもなく自然な
物腰に、あまり意識せずにマッサージを続けることが出来た。
高貴な女性は召使の前で裸になって着替えをするのに
平気だと聞いたことがある。
やはりさゆはお姫様なのかもしれない。

「そう。すごく気持ち良いわ。
猫の体を手で優しく撫でてやるとうっとりと気持ち
良さそうにしてるわ。猫は人間の手が好きなのよ。
人間の手には不思議な力があるの」

そう言えば、手を人間に向けて『気』を送って病気などを
治癒する、気功というものを聞いたことがある。
しかし、そのことがさゆの口から出たのは意外な気がした。
さゆの全身をマッサージしていく内に額に汗が
浮き出してくる。


さゆの肌は、まるで雪のように真っ白い。
全身しみひとつ無くきめ細かい肌だった。
そしてさゆの体はとても柔らかった。まるでほとんど
筋肉が無いみたいで、私の手が受ける感触がとても
心地よい。

ようやく終ると、そんなに力を入れていないはずなのに、
汗びっしょりになっていた。

「ご苦労様。こんなに汗をかいて一生懸命にやって
くれたのね」
さゆは起き上がり、タオルで私の額を拭こうとする、
そのタオルはさゆの体に巻いていたタオルだった、
当然さゆは裸だった。

あわてて手を振って断ると、さゆに背を向けて
さゆの下着や着るものを取りにいく。



さゆは私の持ってきた服の中から赤いドレスを身に着ける。
そのノースリーブのドレスは薄すくてさゆの脚が少し透けて見える。
さゆは私の側に立つと見上げながら、どおと言う風に見た。
「とても似合ってますよ」

さゆは嬉しそうな笑顔を浮かべて、
「ありがとう。でも、友男さんってとても背が高いのね。
きっと180以上あるんでしょ」

「僕は176です」
「嘘!」
「本当です」


そうこうしている内にお昼になり昼食が運ばれてくる。
お昼はイタリア風のランチだった。

二人の前にパスタが置かれる。
もちろんそれだけではなく他に何皿もテーブルに並ぶ。
私の前だけには肉の料理が置かれる。
パスタはミートソースだったが、さゆの前には
別のパスタが置かれている。

そのパスタには赤い粒のような物が見えた。
私が見てるのでさゆは、
「このパスタには明太子をからめているの。
私はこれが大好きなの。今は明太子は中々無いのだけど、
私のために特別に作ってくれるの」
そう言って美味しそうにパスタを口に運ぶ。


昼食が終わりいつものようにジャスミンティーを飲みながら
さゆは私の隣に腰掛けた。

「お勉強の時間よ。昨日言ってた古代のお姫様の
お話をして。すごく楽しみにしてたの」
「いいですよ」

実は昨夜帰ってから下調べをするつもりだったのだが、
昨日は色々あったせいで疲れてすぐ寝てしまったのだ。
さゆの顔を見てるとまた明日にするとは言えなかった、
でもだいたいは憶えているし、忘れたところは創作を
まじえて話すつもりだった。



聖少女 7