Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

運命


さゆは診察が終わるといつもしばらくは、ぼんやり
してるのだが、今日はわりとしっかりしていた。
さゆは、ソファーに腰を降ろしている私の隣に寄り添うと、

「さっきの私がもう子供じゃないという話の続きだけど」

さゆの腰に腕をまわして、
「さゆは、まだ子供に間違いないよ」

そうきっぱりと言うと、
さゆは眉をしかめると、顔を近づけてきて、

「だから考えて見てよ、70年の寿命の人間と20年足らずの
寿命の猫がいるとすれば、15歳の猫はりっぱな大人なのよ」



「へえ〜するとさゆの正体は猫だったのか」

「そうよ。さゆみは猫なのよ、にゃんにゃん〜」

さゆはそう言って、握った両手の手首の先を折り曲げて
可愛く猫の仕草をしてみせる。

笑いながら、さゆの腰に回した腕をぐいと力を込めて
引き寄せたのでさゆは半身になりながら私の膝に乗った。
二人は顔を見合わせて、いつしか唇をかさねていた。


唇が離れると、
「たとえ猫と言えども生きる権利はあるんだ。
寿命で死ぬのなら仕方ない事だけど、でも他人によって
命が左右されることはあってはならないんだ」

さゆはじっと私の顔を見つめていたが、
「友男さんは運命というものを信じているかしら?」

首を振って、
「運命なんて信じられない、自分の人生は自分で
決めるしかないんだ」

「運命は逃れられないものだと思うの。
私の運命は、私が生まれるずっと前から決まっていた
のかもしれないわ。それを受け入れるのも運命なのよ」


ただ首を振るしかなかった。
さゆは私の膝から降りると立ち上がって、

「友男さんとこうして巡り合ってこの一ヶ月間を過ごす事が
出来て、とても幸せだったわ。
一時は私の元から去ってしまったと思い絶望してしまい、
消えてしまいたいと考えたけど、こうしてまた戻って来て
私を愛していると言ってくれて嬉しかったわ」

立ち上がりさゆの手を取った、
その包帯が取れた手首には傷が残っていた。
私のせいでさゆは自分の身を傷つけたのだ。
これから一生その傷の重みを背負って行くしかない。



さゆは私の手を優しく両手で包むと、
「さゆみは、本当は猫では無くて人魚姫なのよ」
「人魚姫?」

「そうよ。知ってる?人魚姫は永遠の命を持っているの。
たとえこの身が滅んだとしても、別の人間の中で永遠に
生き続ける事が出来るの。
友男さんもその人間の一人なの。でもそれには条件があるの、
13日のさゆみのお誕生日の儀式に参加しないといけないの。
だから、必ず友男さんには来て欲しいのよ」

「必ず行きます」


さゆは、私の中で永遠に生き続ける。
すべてが終わった時に、その言葉の意味がわかるのだが。


やがて一日の終わりの時間がやって来た。
長くもあり短くも感じた一日が終わろうとしていた。
さゆはいつもと変わらずに送り出した。

私もこれが最後ではなく13日にまた会えると思って
いたので何事もなくさゆと別れる事が出来た。
さゆは最後のキスをかわしていると、山口が入ってきた。

山口は、スーツケースと小さなバッグを渡したきた。
スーツケースには13日の儀式用のスーツが入っている。
バッグはずしりと重かった、


山口が言った、
「それには金貨が入っている。米ドルで100ドルの価値が
ある金貨が30枚だ」
礼を言って受け取った。

その後山口はカードを渡す、
「それは身分証明用のカードだ。それは、13日に来た時
それを示してビルに入れる」

ドアを閉めて行きかけた山口に声を掛ける、
「もうこの部屋に来る事も無いでしょうけどこのドアは、
いつか人間の脳波で開けると言ってた事がありますね、
僕にでも開ける事が出来るのですか、試してみたいのですが」

山口はうなずくと、ドアの小さな小窓に私の手を当てさせ、
少しすると、

「これでお前の脳波を覚えさせた。もう一度手を当ててみろ」
小窓に手を当てると、
ギギィ〜と重々しくドアは開いた。


山口に、
「忘れ物があるのでほんの少しだけ時間をください」
山口はうなずいた。
ドアが開き、帰ったはずの私が入ってきたので、
さゆはぱっと立ち上がり近づいてくる。

そんなさゆを強く抱きしめると、耳元に口をつけて
囁いた。

「13日に必ず迎えに行くよ、待っていて」
さゆは何も言わず私の瞳を見つめていた。

エレベーターの中で後ろから山口に言った、

「最後に聞かせてください、さゆは自分は人間では
無いと言っています。
教えてください、さゆは人間ではないのですか」

振り返った山口に、
「さゆは、猫ですか?それとも・・・・豚ですか?」


「さゆが豚に見えるか」

私は首を振った、
「見えません」

「さゆみは、猫でもないし、まして豚でも無い。
しいて言えば、人魚なのかもしれない」

その山口の言葉にさゆの言葉を思い出した、
「ではさゆは本当に人魚姫なのですね」

山口はそれには答えず、
「もう一つの人魚伝説がある。私が言ったのはその事だ」
山口はそう言うと、前を向いた。
エレベーターは一階に着いた。


待っていた車に乗り込もうとすると、
「わかっていると思うが、さゆみ様やこのビルの事は
いっさい口外してはならない」

「わかっています」
私が答えると、
「念のためにお前にした事がある。耳の後ろを触ってみろ」

右の耳の後ろを触れてみると、なにか絆創膏のような
物が指に触れた、

「これは何ですか、何をしたのですか!」
「発信機をお前の体に埋め込んで置いた。
一ミリほどの超小型発信機だ」

「はああぁ〜?!」
あの女医の仕業だと思った。


「この発信機はお前の位置を知らせると同時に、お前の
話すこともこちらに送ってくる。
それと断っておくが、発信機を下手に取り除こうとすると
発信機は脳の中に侵入して害を及ぼす事を言っておく」

「冗談じゃないですよ!僕はどうなるんですか!」

「心配するな。13日に来た時に取り除いてやる。
これから三日間大人しくしていることだ」
山口は車のドアを外から閉めた。