人目につかない所へ光男を連れ出すと、
口を開きかけた光男を制して、小さなノートを取り出した、
鉛筆でノートに書いて光男に指し示す。
『僕の体には発信機が埋め込まれています。
僕の会話も盗聴されています、だから筆談でお願いします』
光男はうなずいて、鉛筆を受け取るとノートに書いた、
『組織の上の者には13日のパーティーの事は伝えた。
総統をはじめほとんどの政府幹部が出席するとのことで
全力を上げて攻撃する事に決定した』
『そうですか、しかし政府の方も軍隊を動員してブリードビルの
警備を行うと思われますが』
『それなのだが、外から攻撃を掛けると同時にビルの内部にも
ひとり潜入することになった。
その役目を自分が遂行する事になった。何とかパーティーに
出席出来る方法がないだろうか』
『わかりました。何とか当日までに考えて見ます』
光男はうなずくと、最後にノートに走り書きした、
『俺の家族を殺したやつらを、絶対に許さない』
光男とは13日の午後にここで落ち合う事になった。
迎えの車が午後5時に来る事になっていた。
アパートに帰ると調べたい事があって収納庫を
探った、
山口が言っていた『人魚伝説』というのが気になっていた、
大学の図書館へ行けばいいのだけど、何か外へ出る気に
なれないので、自分の書物の中に人魚の関しての記述が
無いか探してみることにした、
たしか、人魚に関した本を読んだような記憶があった。
ようやく奥の方からその本は出てきた。
古ぼけて黄色く変色したその本はかなり昔のものだった、
破れそうなページを慎重にめくってみると、それは漫画だった。
タイトルは、「人魚の森」だった。
その本を読み終えると、さゆの事を考えた。
さゆと人魚。
さゆの身に起こる事をこの本は暗示しているのかもしれない。