Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

悪魔からの贈り物


ねえ、神子〜欲しいものがあるんだけど、


「何ですか?即物的な物はダメですよ」


その〜そのあの、そうなのだけど・・・


「落ち着きなさい。即物的はダメ」


今乗ってるライフがもうダメみたいなの、


「新しい車が欲しいとか?」


そうよ!そうなのよ、この前ダサいと思ってたマツダ
車に、すご〜く恰好いい車を見つけたの。

「ふ〜んそれで」


だからぁその車、ロードスターを買いたいの。



「そんなに欲しいなら買えば」

ええー!買ってもいいの?!


「良いも悪いも、あなたのお金で買うのは自由ですよ」

って、だからあーーーーそのお金が無いからーーー!

「じゃあ、諦めなさい」


だってぇ、諦めきれないから神子に頼んでるの。

「その車はいくらするの?10万円、二十万円?」

それっぽっちじゃ中古でも買えないわ。新車で三百万。

「ふ〜んそれぐらい貯金はないの?」


あるわけないでしょ!せいぜい三十万ぐらい、それも
ガス水道、電気代、NHK、クレカの払いで、毎月五万も
払ってるから半年でなくなるし。

「だったら諦めることね」


ねえねえ、神子は悪魔なんでしょ、

「小悪魔」

そうね。だからあ、魔法が使えるんでしょ、
ちょいちょいと魔法を使って三百万円ぐらい出せるよね?

「だから、最初に言いましたよね。即物的な願いはダメって」


そこをお願い!なんとか出来ないの、

「無理な事を言うのなら、契約違反で閻魔様に訴えますよ」

あれ?訴えるのは、サターンって言わなかった?

そそうでした、とにかくダメです。


だからーー諦めきれないのよ、どうしてもロードスター
欲しいのよ。ほら見てみなさいよ恰好良い車なんだから、
と、カタログを神子に見せる。

神子はそれをちらっと見ただけで、向き直ると、


「どうしてもその車が欲しかったら、もっともっと働きなさい。
働いて、貯金してお金を貯めなさい」


だって・・・今だって私なりに一生懸命働いてるよ、
でも給料は安いし、毎月ギリギリの生活なんだから、
貯金って言ってもせいぜい月に一万円ぐらしか、
それじゃあ三百万貯めるのに、えーと三十年はかかるよ、

「・・・・」


私ね、夢なのよ。ロードスターって2シーターで2人乗りなの。
そいで、オープンカーなの。
抜けるような青空の下、助手席には神子。どこまでも続く高速道路を
地の果てまで、神子と二人だけのドライブ。
ああ、どんなにか幸せだろうな・・・


しんみりとしてる神子にすがりついて、


お願い!一生のお願いだから、一度だけでいいから言う事を聞いて!
聞いてくれるなら・・・たとえ、魂を抜かれても、
って魂を抜かれたらどうなるんだっけ?


「魂を抜かれたら人形になって、自分の考えが無くなり、
ただただ骸(むくろ)のようになって過ごすしかないの」


ブルブル!いやいや神子の為ならたとえ魂を抜かれてもいいわ!

そう言ってボロボロを涙を流すのを見て神子は溜息をつくと、


「わかったわ。一度だけよ。本当に一度だけ聞いてあげる」

わああーーーー!?嬉しいーーーーーー!!!!


そして神子に何度も何度もキスして、そのまま二人はかさなって倒れ込む。



翌朝、目が覚めて隣を見るとまだ神子は眠っている。
昨夜のめくるめく情事のせいで疲れてるようだ。

愛おしさがつのってきて、そっとその額に唇をあてる。


それで神子は目を覚ました。目の前の私に気が付いて
恥ずかしそうに眼をそらす。 可愛いい。


朝食を済ますと、
神子はスマホを取り出し何処かへ連絡をとる。
そして私に銀行の口座番号を聞いてきたので、
通帳の口座番号を答える。


「わかりました。30分後ですね」
そして神子は私を見て、
「じゃあ銀行へ行きましょう」


ねえ、神子その電話は何処にかけたの?

「これはサターン直通の回線なの」

えぇー?ってそれってどこの回線を使ってるの?
ドコモ、auソフトバンク


「この回線は、悪魔界専用の通信衛星を通して回線が繋がってるの」

へえ、そうなんだ。


ライフでその銀行へ向かう。


運転しながら、
ねえ、口座番号って事は、三百万円が振り込まれるって事?
そのお金は何処から出るの?

「つまり、私には活動資金が日本円で一千万円まで使えるの。
その出どころはもちろん悪魔界からよ」


へぇえ〜便利ねぇ。って魔法で出すんじゃ無いんだ。

「もちろん、正当な理由がある場合に限られるわ。
あなたと私にとって車が必要であると申告して
認められたわけ」

そうなんだ。でも、不正な理由だとしたら・・・?


「不正な理由でロードスターを買うつもりだったの?」

違いますー!!正当な理由だからーー!


「不正な理由で資金を使ったと認定されたら、あなたは魂を抜かれ、
担当者の私も処罰されるわ」

どんな処罰なの?


神子は首を振りながら、
「悪魔界を追放されて、口では言えないような罰を受けて、
もう二度とあなたとも会えなくなるわ・・・」

神子は下を向いて唇を噛みしめている。



わかった。誓うわ。もう二度と無理な事は言わない。
神子と会えなくなるなんて死んでも嫌。


銀行の駐車場にライフを止め、窓口へ通帳を出す。
やがて帯封をした手の切れるような新札の三百万円が
払い戻された。ちょっと震えながらバックに入れる。

ライフの運転席に戻って大きく息をつく。
助手席で待っていた神子に、


ありがとう。本当にありがとう。お礼のしようがないわ。

神子は笑顔で私の手を握ると、
「良かったわ。あなたの嬉しそうな顔を見ると私も嬉しいわ」


これでロードスターを買えると嬉しさがこみあげてくる。
エンジンキーをまわしてもエンジンを掛けようとした。


エンジンが掛からない。


何度やっても、ブルブルブゥーと止まってかからない。

何度も、何度もキーをまわしてもエンジンは掛からない。


このーーーー!?このオンボロライフがーーーーー!!


「落ち着きなさいよ。ゆっくり十数えてからキーまわしなさい」


深呼吸して十数えてからキーをまわすと、ブルンブルン、ブオオーーー!
ようやくエンジンは掛かった。


「ライフは嫉妬してるのよ」


ええーー??

「この車には長く乗ってるんでしょう」

うん。もう十年以上。

「初めてこの車に乗った時の事を憶えてる?」

よく憶えてる。初めての自分の車で飛び上がるほど嬉しかった。


「長くあなたに大切に愛されて、ライフも懸命に
あなたに尽くして来たのよ。
そんなあなたが、いよいよ新しい車、ロードスターに乗り換える
と知って、焼いてるのよ。可愛いいじゃない」


それを聞いて、思わず涙がこぼれ落ちた。
本当にごめんなさい。いままで尽くしてくれてありがとう。

神子が腕を伸ばして、手を握ってくる。
それを握り返した。


「でも、ロードスターは買うのね」


もちろんよ。


終り。