Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

悪魔との契約 最終章 二

猫は神秘


小鳩は、ある日神子が何気ない口調で言った事を、
なぜ真剣に考えなかったのだろう。
なぜ予兆に気づかなかったのだろう。


「今度の日曜日、ドライブに連れていってくれない・・・」

「ドライブに行きたいの?」

神子が自分からそんな事を言い出すのは珍しい事だった。

しかし小鳩は、
「でも今度の日曜日、予定があるの。友達と約束して会うの。
次の日曜日にしてよ」

神子はうなずきながら、
「わかった。次でいいわ」

「ごめんね。ドライブって行きたい所があるの?」
「別にないけど、前に一緒に行った海を見たいと思っただけなの」

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「海?いいわね。じゃあ次ね」

 

その次は、無かった。永遠に。


その友達とは、彼女だった。
神子と暮らすようになってからほとんど会ってなかったから
楽しみだった。


神子との日常の一週間は、
平日は小鳩が出勤した後、神子も仕事に出て行く。

一度何処に行くの?聞いてみたら、
悪魔界の地上での支所があって、そこで働いている。と言う。
そして詳しい事は言えない、絶対に詮索しないで欲しいと、
厳しい顔で言ったので、
それ以上は聞けなかった。

神子は、いつも午後五時に帰って来る。
それから家事をやり夕食の支度を整えて小鳩を待っている。
週末はずっと家にいて二人だけの時間を過ごす。

そんな日常に満足していて、倦怠感など無いはずだった。
でもたまには違った一日があってもいい。

木曜日、帰っても神子はいなかった。
月に一度、帰ってこない日がある。
悪魔界に行って会議やら報告などがあるらしい。

金曜日も、神子の姿はなかった。
土曜日も、帰っても神子はいない。

段々不安にかられてくる。三日も戻らないなんて無かった。
何度もスマホで連絡しようとしても、電源を切ってるのか通じ無い。

その夜はほとんど眠れなかった。
日曜日、彼女と待ち合わせて会っていても、
考えるのは神子の事ばかり。

楽しいはずの食事も、ほとんど喉を通らない。

「あなたの心は今ここには無いのね。戻りなさい。
あの子の所に」

彼女の言葉に、堪え切れずに涙がこぼれた。
立ち上がって彼女に頭を下げて、レストランを飛び出した。

高層ビルのマンションの二人だけの部屋に向かう
エレベーターの中で、神子が戻っている事を祈った。

ドアを開けても中は暗く、灯りを点けても寒々とした
空虚な部屋の中で小鳩は座り込んだ。

その夜は、昨夜に続いて一睡もしないで神子の事を考えていた。
自分が神子なしではいられない事を思い知らされた。

 

なぜ、あの時海を見たいという神子の願いを聞いて

あげなかったのか。自分を責めた。

神子は何か相談があったのかもしれないのに。

 

それから三日立っても神子は戻らなかった。
会社には風邪を引いたとずっと休んでいた。

何度も何度もスマホで連絡しても、通じ無い。

ずっと部屋の中にこもっていて、もし外に出た時に神子が
戻って来るのを恐れて一歩も外に出なかった。

部屋の中は荒れ果てていて足の踏み場も無い。
食べ物も無くなったけど、食欲も無かった。
またスマホをかけたけど、通じ無い。

ついに、窓を開けるとそのスマホを思いきり
外に放り投げた。部屋は20階だった。

神子と同居する事になって安アパートでは手狭なので

この高層マンションへ引っ越したのだ。

もちろん費用はすべて神子が出してくれたのだけど。

 

毎日ほとんど眠れなかった。外のわずかな音にも
飛び起きてドアを開けたが誰もいない。
精神的にも肉体的にも限界だった。

起き上がってぼさぼさの髪の毛を掻きむしると、
ついに決心した。

神子が働いている悪魔界の支所とやらへ
乗り込んでみることにする。

場所の当てはあった。


つづく