Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご最終章 三

Theatre

公演の前日、ロサンゼルスの1930年代に建てられたという
素晴らしい会場でメンバーはリハーサルを行っていた。

午前のリハが終わり、通し稽古は午後に行う事になり、
としこ以外のメンバーは休憩のため、いったん
ホテルに戻った。

残ったとしことコンサートディレクターは、ライブの
進行について打ち合わせをしている時だった。

二人の男性が会場に入って来た、一人は制服の警官だった。
もう一人はコートの年配の男性で警察官らしい。
通訳の方がその年配の人の話を聴いている。

通訳が二人を連れて来た。

「こちらはロス市警のジェラード警部だそうです」

としことディレクターは顔を見合わせた。
突然の警察官の訪問に何事かと不安にかられた。

やや頭が薄くなり痩せて鋭い眼をしたジェラード警部は
重々しく喋り始めた。

としこには「Cancel」という単語だけを聴き取れた。

 

ロサンゼルスへ渡米する数日前に、りんごと明の教会での結婚式の段取りがようやく決まった。

ロサンゼルスライブの後に二人の教会での式にメンバーも
出席する事は、何とか事務所の了解を得られた。
ただし、スケジュールの都合で式はライブ当日の午前に
行われる事になり、それが終わってライブは夕方から
始まる事になる。

その前にちょっとした問題が起きた。
りんごをヴァージンロードでのエスコート役の父親が
持病の膝痛が悪化して歩くにも難儀となり、
エスコート役を辞退する事になったのだ。

父は代わりに母親にやってくれと頼んだのだけど、母は、
初めての事だしそんな大切な役目はとても自信が無いと
断ったのだ。

それでりんごは明に相談した。

「ヴァージンロードのエスコート役は誰でも良いらしいよ。
例えば花嫁の友人がやった例もあるようだしね。
どうしても適当な人がいなかったら、花婿が花嫁を
エスコートする場合もあるようだし、俺がやってもいいよ」

りんごはじっと考えてから、
「やはり、明さんにはヴァージンロードでエスコートされる
りんごを待っていて欲しいな」
「わかった。りんごの言う通りにするよ」

りんごは居住まいを正すと、

「今、りんごには家族以外で愛する人が二人居るの。
一人は明さんよ」

明はうなずいた。

「もう一はりんごにとって一番大切な、愛してる人・・・」

「わかった。としこさんだね」

りんごは大きくうなずいた。

「とても良い考えだね。もしとしこさんがいなかったら、
俺たちは結婚出来なかったかもしれないよ」

りんごはすぐにとしこに電話を掛けた。
としこは驚いて、

「ダメよ!そんな大事な役目を私なんかが出来ないわ」
「お願い。お父さんもお母さんも出来ないし、としこしかいないのよ」
「でも・・・」

りんごは明にスマホを渡して出て貰う。

「何とか、エスコート役を承知して欲しいな。
りんごは、としこさんの事をとっても愛してるそうだよ。
そして・・・俺もとしこさんを愛してる。りんご同様に」

「そうなの。同じくらいにね。じゃあその証拠を見せてよ」
「証拠って?」

「本当に愛してるなら、私とも結婚してくれる?」

明は思わずスマホを押えてりんごの顔を見た。
りんごはそれが聞こえたのかどうか、うなずいてみせる。

「・・・もし許される事なら、してもいいよ」

としこは笑いながら、
「ありがとう。嬉しいな。じゃあその時はヴァージンロードの
エスコート役は、りんごにやって貰うわ」

明も思わず大きな声を出して笑った。

りんごが顔を近づけてきて、
「ねぇねぇ、何がそんなにおかしいの?としこも笑ってるし」

「後で話してあげるよ」
としこに、
「じゃあ、OKだね」

「はい。私でよかったら」

「ありがとう。でも、としこさんが本当に結婚したい人は、」
言いかけたが、止めた。

「・・・・」

明はスマホを切ると、
りんごを強く抱きしめた。

そして、りんごと明は家族、メンバーと共に渡米した。
何かが待ち受けている、ロサンゼルスへ。

 


つづく。