Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

さゆと萌 その後 一

火事


麻美は、産まれたばかりの沙絵を抱いているさゆに、

「道重さん、沙絵の子育て大変でしょう。
たまには息抜きしてらっしゃいよ。
沙絵は私が見てるから、萌とデートに行ったら」

という事でご飯を食べに行こうと、さゆは萌と
手を繋いで歩いていると、
前方の空に黒い煙が立ち上っているのが見えた。

「大変!火事みたいだよ、行ってみよう!」

さゆは不安そうに、
「危ないよ、近づかない方がいいよ!」

「でも、なんか嫌な予感がするの。行ってみる」

萌はさゆの手を引いて火事の現場に駆け付けると、
十階建てのマンションの中ほどのベランダから
煙がもうもうと噴出している。

ビルの前で女性が半狂乱になって泣き叫んでいる。

「どうされたのですか!」
さゆが聞くと女性は泣きながら、
「子供が、一歳の子供がまだ中に居るんです!!
ちょっと買物に行って帰ったら入口は入れないほど
煙が噴き出していて!」

何階に子供は居るかと聞くと七階だと言う、
煙が出ている上の階だった。

萌はとっさにその七階のベランダに飛び上がろうとしたが、
まわりを見るとすでに何人も人が集まっていた。

七歳の女の子が一瞬で七階まで飛び上がったら、
不審に思われると、萌は伸びている雨樋に取りつくと
ぐんぐん上に登って行く。

「萌ちゃん!気をつけてーーー!?」
さゆは不安げに叫んだ。

ようやくサイレンの音が近づいて消防車が到着した。

七階のベランダに登った萌は、鉢植えを持ち上げると
サッシに投げつけてガラスを叩き割る。
すると部屋から煙が噴き出して来た、それを
物ともせずに萌は部屋の中へ飛び込んで行く。

消防士がホースをかかえて走って来る。
はしご車も到着していた。

七階の部屋からは黒い煙が噴き出し始めていた。

「萌ちゃんーーーーーー!!」
不安にかられてさゆは悲鳴を上げる。

その時ベランダに萌の姿が現れた。
腕には幼児を抱えている。
しかし萌の衣服や髪の毛に火がついて燃えていた、

萌はすぐに七階から大きくジャンプして飛び降りた。
それを見た母親の女性が悲鳴を上げる。

萌は子供をかばって地面に背中から激しく墜落した。

消防士が駆け寄ると、萌は腕を伸ばして子供を預けた。
子供には火は燃え移ってはいない。

消防士が子供を受け取ると、
萌の体の火が大きな炎となって燃え上がった。
子供を受け取った消防士が思わず避ける程だった。

別の消防士が駆け寄り、炎を上げて燃え上がる
萌の体にホースで放水する。

子供は母親に抱かれると大声で泣き始めた。
ケガや火傷は無いようだった。

萌の体の炎は放水で消えたが、
そこには全身黒焦げになった体が残されていた。

消防士が萌の様子を見ていたがそっと萌の体に
触れるとすぐに離れて、
仲間に向かってダメだと、ゆっくりと首を振った。
そして萌から離れて消火活動に向かった。

その一部始終をさゆは、萌から数メートル離れた所に
へたり込んで見ていたが、
ショックで呆然となって座り込んだままだった。

萌は全身黒焦げになってピクリとも動かない。
さゆは萌に近づこうにも体が動くに動けない。

ようやくサイレンを鳴らして救急車が現場に到着した。

その時だった。

さゆは萌の片腕がわずかに上がるのが見えた。
その黒焦げの腕がゆっくり伸びると、

まるで手招きするようにその手はひらひらと振られる。

正直、さゆは黒焦げの萌が怖かった。
しかし、自分を手招きする萌の手に吸い寄せられるように
這いずりながら近寄った。

「萌ちゃん・・・・?」

すると、
「さゆみ」と、萌の声が聞こえた。


続く。