Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

純愛 二

麻美の元にさゆから連絡が入った。

「何とか無事に空港に降り立つ事が出来ました」

麻美は驚いたが、道重さんの事だからありうる事かもしれない。
問題は空港からこの家へどうやって来るかだった。

出来うるならば車で道重さんを迎えに行きたい。
これまでも車で空港まで迎えに行っていたのだけど、

しかし、家付近一帯も昨夜の降り続く風と雪で1メートル以上の
雪が降り積もっていて、何とかして雪かきして近くの国道へ
出れてたとしても、国道でトラックがスリップして道路をふさいで
立往生していて、1キロほど車が列をなして止まっている
状態で、とても車で行くのは不可能だった。

さゆはそれを聞くと、
「わかりました。ではタクシーで行きます。だけど、
タクシー待ちの長い列が出来ていて、乗れるのに
だいぶ時間がかかりそう・・・」

麻美はため息をつくと、
「そうですか。だけどタクシーは家へは途中までしか
行けないと思います」
「はい。そうなったら降りて歩いて行きます」

「では、タクシーから降りたら連絡してください。
私がそこまで歩いて迎えに行きます」

この吹雪の中を歩いて行くのは、普段雪に慣れている
自分達でも大変なのに、まったく慣れていない道重さんが
歩いて来るのはどれだけ大変な事か、想像もつかなかった。

それから二時間以上立ったがさゆからは連絡が来なかった。
この猛吹雪の中ではバスもタクシーも走れる数も少ないだろうし、
道路があちこち寸断されているので、空港までの往復も長い時間が
かかってるようだった。

萌も心配そうに麻美を見上げて、
「さゆみお姉ちゃん、まだ来ないの?大丈夫?」

麻美は萌を抱き寄せると、
「大丈夫。さゆみお姉ちゃんから連絡が来たら
私が迎えに行くから」
「萌も一緒に行く!」

麻美は笑って、
「そうね、萌ちゃんには私が迎えに行ってる間に
頼みたい事があるから、一人で待っていて欲しいな」
萌は大きくうなづいた。

それからまた長い時間が立ち、
ようやく、さゆから連絡が入った。

さゆは少し間を置いてから喋り始めた。
「今、タクシーに乗れました」
「そうですか!何時頃列に並んだのですか?」
「一時頃だったかな」

麻美は時計を見た、午後五時だった。息を呑みながら、
この吹雪の中、四時間も待って居たのかと思うと、
言葉も無い。

そして、これから途中でタクシーを降りて歩かなくてはならない。

それから一時間ほどしてまたさゆから連絡が入った。

さゆは不安そうに、
「道が止まっている車で塞がっているので、タクシーを
降りたのだけど、辺りが雪で真っ白なのでどちらの方向へ
行けばいいのかわからないの・・・」

「周りの建物を見てください!その建物の名前が
わかりますか!」

「近くにスーパーのような店が見えるけど」

「側まで行ってスーパーの看板を見て名前がわかりますか!」

「東光・・・ストア?みたい」

麻美は思わず安堵のため息を漏らした。
東光ストアはよく買物に行くスーパーだった。
家から車で数分、歩いて行くなら通常は40分ぐらいで行ける。
しかしこの吹雪の中では・・・、

「すぐに家を出てそこまで行きます!東光ストア
店内に入って待って居てください」

「シャッターが降りていて入れないの」

あちゃー!と麻美は頭をかかえた。
東光ストアまで歩いて行くには、この吹雪ではどんなに急いでも
一時間以上かかりそうだった。
すでにタクシーに乗るのに4時間も待たされて体力を消耗している
道重さんを待たせるのは、下手をすると凍死しかねない。

「道重さん!」
「はい」
東光ストアを道路の右手に見てください。
それから真っ直ぐ前を向いて、ゆっくりで良いから歩いてください。私はすぐに出て歩いて迎えに行きます」

「はい」

 

外に止まって待つと体が凍えてしまう。歩いて体を動かした方が少しでも体の熱量を上げられるはずだと思った。

麻美はダウンを着てマフラーを首に巻き雪用のブーツを履き
重装備をして急いで家を出ると、胸の辺りまで積もっている
雪をかき分けながら道路に出ると、立往生している車の脇を
東光ストアに向かって歩き出した。

 

一時間以上歩き続け、すっかり辺りは暗くなっていて
幸い街灯は点いていたが雪もまだ降っていたので、
視界は数メートルしか無い。

ふと、前方の左手の方からぼんやりと、まるで亡霊のような影が
近づいて来るのに気がついた。

ザク、ザクと雪を踏みしめる音と共にその影は目の前にやって来る。

全身雪まみれで、髪の毛に重そうなほどに雪が積もり、
その人はゆっくりと側に来る。

麻美は、「道重さん!」と大声で呼びかけた。

さゆはその声が聞こえないのか、ひたする足元を見つめながら
通り過ぎようとする。

麻美は駆け寄ると、さゆの肩を掴んだ。

はっと顔を上げてこちらを向いたさゆの顔を麻美は一生忘れないだろう

暗くて表情は良く見えなかったが、その瞳だけが異様に光っていた。

それから、二人は腕をしっかり組み体を寄せ合いながら
歩き続けた。

途中で麻美は、萌に連絡を入れ、
すぐに入れるようにお風呂を入れて、熱いコーヒーを
飲めるようにお湯を沸かして置いてと頼む。

そして、家に着いた。

蹴破るように雪に閉ざされた玄関をこじ開けて中に入る。

麻美は、
「萌ちゃんー!帰ったよー」
と大声で呼ぶと、

萌が奥から走り込んでくる。
その手にはバスタオルを持っている。

「さゆみお姉ちゃん!お帰りなさい」

さゆはその声を聞くと、
精根尽き果てたように玄関口に崩れ落ちた。

萌は膝をつくと、さゆの髪の毛に積もった雪を
バスタオルで丹念に拭き取っている。

さゆはそんな萌の小さな膝の上に頭を横にして
もたせかけている。
萌は雪を拭き取ると、
さゆの髪の毛を優しく撫でている。

さゆの横顔が幸せそうに見えて、
麻美は涙が止まらなくなっていた。

 

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さゆが熱いコーヒーを飲み終わったのを見て、麻美は萌を見た。
萌はうなづくと、

「さゆみお姉ちゃん、お風呂に入れるよ。
萌と一緒に入ろう」

その時一瞬、さゆが恥ずかしそうな表情を浮かべたのを
麻美は見逃さなかった。

すぐにさゆは笑顔でうなづくと立ち上がった。

さゆが浴室の方へ行くと、
その後は萌がとことこと追いかけてゆく。

しばらくして、浴室のドアの外にいってみると、
さゆと萌の楽しそうな笑い声が響いてくる。

麻美はタンスから萌の下着と、さゆと背格好が同じなので
自分の新しい下着を出して揃える。


そして、道重さんは萌の事をどんだけ好きなのかと思う。
萌もそんなさゆを受け入れて懐いている。

そんな二人の関係は、単なる好意とか愛情とかを
超越したものに思えてくる。


終わり。