Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

純愛

さゆはその後、一月に一、二度ぐらいあの麻美と萌の母娘に
会いに北海道へ通い始めた。
母娘というより五歳の萌に会うためだった。

さゆは幼女が大好きだけど、しかし幼女に接しようとすると、
たいてい嫌われる事が多くて、遠くから眺めるだけで
我慢していたが、萌だけは違っていてさゆに懐いてくれた。

復帰して忙しい中時間をやり繰りして遠い北海道へ
毎月通う度に萌は、
「さゆみお姉ちゃん~」と笑顔で迎えてくれる。
それがさゆにとって最大の喜びであり癒しだった。

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年末年始で、さゆはラジオやハロプロのイベントなど
自身のツアーなどで、休みが取れなくて、
楽しみだった北海道に行けなくて、三か月近くも間が
あいた頃に、ようやくわずかの休みが取れた。

すぐに航空券を取り、夜に母親の麻美に連絡を入れる。
「やっと休みが取れたの。明日の朝一番に行きます」
さゆの浮き浮きした声でどんなにか待ち焦がれていたかわかる。
しかし、麻美は言いにくそうに、

「そうなんですか。お待ちしています。でも・・・」
「今すぐ飛んで行きたい気持ちなの。何か?」

「実は天気予報で、明日の朝から今年一番の寒波が
やって来るみたいなんです。すでにかなりの雪が
降っています」
「そうなの。でもどんなに雪が降ろうが行きます!」

「はい。でも最悪空港が閉鎖されて飛行機が飛べない
かもしれないし、飛んでも空港上空に来ても着陸
出来なくて、羽田へ戻るかもしれません。
明日は止めた方が良いのでは」

それを聞いたさゆは、絞り出すように言った。
「明日しか休めないのよ。明日しか・・・」

「わかりました。飛行機が着陸出来るように祈っています」
さゆのただただ萌に会いたいという想いが強く伝わって来る。

その後、深夜から北海道上空には猛烈な風と雪になり、
たとえ東京は晴れていても、新千歳空港上空に飛行機が
来ても着陸出来ない可能性が高かった。

早朝、さゆから今から搭乗して向かう。と連絡が入った。
麻美はニュースで新千歳空港の猛烈な吹雪の様子を見て、
とても着陸出来る状態では無かった。

北海道へ向かう機内で機長のアナウンスで、
新千歳空港上空は猛烈な吹雪で到着しても
降りれなくて羽田へ戻る事がある。と言う。
さゆはギュッと眼を閉じ手を合わせて祈るしかなかった。

機は新千歳空港上空に差しかかった。
高度が高い内は、上空は雲が無く晴れている。
しかし、下を見れば一面ぶ厚い雲に覆われていて、
猛烈な吹雪が吹き荒れているに違いない。

管制塔からは、しばらく上空を旋回して天候の回復を
待つようにと無線が入る。
旋回を続け、かなりの時間が立っていた。
これ以上待つ事は、羽田までの戻る燃料の関係で出来ない。
機長は決断するしか無くマイクを手に取り、
羽田に戻る。とアナウンスしようとした時だった、

管制から呼び出しが掛かり、吹雪がわずかにおさまり、
何とか着陸出来そうだが、どうするかという事だった。
機長は副操縦士と顔を見合わせた。副操縦士はうなづき、
ベテランの機長も決断した。
「よし!天の助けだ。降りよう!」

管制へ着陸すると返事をする。

機長は機内の乗客達にアナウンスした。
「只今から着陸します!」
それを聞いて機内には大歓声が上がった。
さゆも安堵の思いで思わず涙ぐみそうになる。

機は降下して、ぶ厚い雲の中に突っ込んで行った。

通常は例え視界がゼロでまったく見えなくても
最新の計器飛行のおかげで安全に着陸出来るのだけど、
今回の猛烈な吹雪では、着陸態勢に入った時に
強い風にあおられて翼がバランスを崩し、滑走路に
叩きつけられたら大事故になり非常に危険なのだ。

吹雪が多少おさまっているとは言え、
翼が上下にぶれてバランスが崩れる中、ベテランの
機長が必死に操縦桿を操り、何とか着陸に成功した。

あれだけ猛烈な吹雪が吹き荒れていたのに、
奇跡的に天候がおさまり着陸出来たのはもしかすると、

さゆの萌に会いたいという執念のたまものかもしれない。

 

機が着陸した直後にまた猛烈な吹雪が襲ってきたせいで、
他の飛行機は着陸を断念して各地の空港へ戻って行った。

年配の機長は、窓を叩きつける猛烈な吹雪をを見ながら、

「どうやら、この飛行機には幸運の女神が乗っているようだな」

と、つぶやいた。
副操縦士も、そうですね。と、うなづいた。

無事に着陸しても、吹雪の空港から萌の待つ家へ向かうのに
さゆには大変な苦労と困難が待ち受けていたのだが。


つづく。