Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

再会・その後


「もしもし、鈴木です。あっ、
 のんちゃん〜!
 久しぶりだね、夏以来じゃないの〜
 元気だった?」


『うん、私もお母さんも元気だよ〜。
 なっちはどうなの、お義兄さんとはうまくいってる?』


「ふふふ、大丈夫さ〜、あれからまたラブラブだよ〜」

『そうなんだ〜よかった』


「のんちゃん・・・なんか私に相談でもあるの?」


『あのね、東京にいる時も言ったことあるけど、
 今度またオーデションがあるのだけど、私ね、
 思い切ってオーデション受けてみようと思うの』


「ええ〜!そうか〜やっと決心したのか、大丈夫、
 のんちゃんなら絶対受かるよ、 ちっちゃい頃から
 歌が大好きで、絶対歌手になるんだって言ってたね〜」


『自信はまったく無いんだ、受けるかどうか迷ったんだ、
 私、そんなに可愛くも無いし、歌も上手くないけど、
 でもねどうしても歌手になりたいし、後悔はしたくないし、
 最後のチャンスだと思って決心したんだ・・・』


「大丈夫さ〜!のんちゃんは十分可愛いし、それに
 あのグループは歌が上手くなくても入れるので有名だから、
 のんちゃんなら絶対入れるさ〜」


『そうかな〜、お姉ちゃんにそう言ってもらえると、
 なんだか自信が出てきたよ』


「そうだよ〜、自信が一番大事なんだよ〜、
 あのね、なっちからも良い話があるんだよ、
 来年の春に東京へ帰れそうだって旦那さんが
 言ってたよ」


『え〜!ウソ〜!』


「ウソじゃないよ〜、もしかすると来年の春には
 のんちゃんがデビューする姿を東京で見られそうだね」


『エヘヘ〜、そうなってるといいね』


「絶対そうなってるよ、じゃあね、良い知らせを待ってるね」


『お姉ちゃん・・・』


「な〜に?」


『ありがとう。じゃあまたね〜』



     

「帰郷」

毎年のようにメンバーの卒業と加入を繰り返して進化
して来たアイドルグループのハッピー・ドリーム。は、
またも新メンバーを募集して全国各地でオーデションを
行った。


東京会場でも、1次を経て2次審査通過の者が決まった。


「では、2次通過はこの安倍希美さん1名だけと
します。そういうことで良いですね」


VTR審査を終えたプロデューサーの寺内が、
審査に加わったスタッフに言った。


ほとんどの者がうなづく中で、ひとりだけ
異議を唱えた者がいた、


「私は反対です、どうしてあなたが彼女を
選んだのかわからない・・・」


「そうですか、反対意見があるならお伺い
しましょうか」


「選ぶのはあなたですから、私がどうこう言っても
始まらないかもしれない、しかし、ひと言だけ
言わせてもらいます、 彼女はアイドルとして表に
出るとしたら重大な欠陥を持っていると思うのですが」


「それは、あの事ですか?」


「そうです。もし彼女が最終審査に合格したとします、
それはあなた次第なんですが・・・、そうなったら
彼女自身をはじめ、周囲に多大な影響を及ぼし、
ハッピー・ドリーム。の名前は地に落ちると
思いますが」


「・・・・」


「1次はともかく2次を通すのは間違っているのでは
ないかと。彼女を選んだ理由は?」


「ひと言で言えば、将来性です。確かに歌や踊りは
まだ心もとないかもしれないけど、可能性は大いに
あるんと違いますか、それとあの明るさです、
人を引きつける天性の明るさが彼女にはあると
思うのですけど」


「私は、あの子の明るさが信じられない・・・、
そんなものがあるとはとても思えない」


「それは、あんたの偏見と違いますか。
人を表面だけしか見られない俗物的な考えが、
彼女みたいな子が表に出ることを阻んできたのと
違いますか」


「とにかく、彼女のためでもあるんだ、
あのままではアイドルとしてとてもやっていけない、
不幸な結果になるのは目に見えている」


「とにかく、すべては私が責任を持って行うことです。
 あの事だけをもって、彼女を落とすことは出来ない」


「私は審査会場であの子を見ましたが、もちろん
VTRであれを見た上でのことでしょうね」


「もちろん、見た上での審査をしました」


「それならもう何も言いません、すべての責任者は
あなたなのですから」


寺内は、立ち上がってキッパリと言った、


「では安倍希美さん1名だけを2次審査通過とします」


2次審査通過は、希美を含め全国で24名だった。




「帰郷 2」

ハッピー・ドリーム。オーデション東京会場の2次審査を、
ただ一人だけ通過した希美は、
その報告を九州の姉のなつみに電話で伝えた。


『のんちゃん!良かったね〜、お姉ちゃん嬉しくて
嬉しくて、飛び上がっちゃったよ〜!』


希美もなつみの弾んだ声にあらためて喜びが
湧き上がってくる。


『こちらでもケーブルTVで福岡の
ハッピー・ドリーム。の番組が観られるのだけど、
のんちゃんが一人だけ2次審査を通過したのを見た時は
信じられなかったよ〜、それでオーデションは
どうだったの?』


希美は、最初は緊張したけど大好きな
浜崎あゆみさんの唄を思い切り歌ってアピール
出来たと、嬉しそうに話した。


『そうだね、のんちゃんが頑張ったからだよ〜、
本当に良かったね・・・』


思わず声を詰まらせるなつみに、希美は笑って
まだ2次を通過して24人の中に残っただけ
なんだからと言った。


『そうだね〜、これからが本番なんだね、でも
のんちゃんだったら絶対に合格するよ!
お姉ちゃんそう信じてるよ。頑張ってね!』


希美は力強くうなづいて答えた。


『のんちゃん・・・あの事は言われなかったの』


少し、二人の間に沈黙の時間が流れた。


希美は、大丈夫、その事は言われなかったと言った。


なつみは電話を切った後、妹の希美の事を考えていた、
あの事だけが心配だった。


なつみは肌身離さず持っている、希美の写真を
取り出して眺めた。


それは、希美が屈託の無い笑顔を見せている写真だった、
なつみの一番好きな希美の写真だった。



その写真の希美の左の頬一面には、青黒い痣がべったりとあった




「帰郷 3」


2次を通過した24人の3次審査が始まった。


3次では寺内が会場に赴き歌を聴いた後、1人ずつ
面接を行う。


寺内は歌唱力やダンスの上手さより、ひとつは個性、
ふたつ目は将来性を重んじて選考してきた。


選考を通過してきた24人は粒ぞろいの個性的な
者ばかりだった、その中でも希美は、色んな意味で
異彩を放っていた。


選考は進み希美の番になった、希美は寺内の前に
進み出た。


「安倍希美、16歳高校1年です」


もちろん希美は、ハッピー・ドリーム。が結成以来、
ずっとファンとして観て来て、寺内の心を射止めれば
それが合格への道だと承知していた。


希美は真っ直ぐに寺内を見つめて、無心に歌い切った。


歌い終わり深々と頭を下げた希美に、寺内は、


「歌ってどうですか、気持ちよく歌えましたか」


「はい!とても気持ちよく歌えました」


希美は笑顔で元気良く答えた。


「そうですか。ハッピー・ドリーム。はファンに
夢を与えるグループだと私は自負しています。
もしあなたがハッピー・ドリーム。に入ったら
どんな夢をファンに与えることが出来ますか」


希美は少し考えてから答えた。


「まだよくわからないけど、でも私は思うのだけど
それは、希望がかなうということかな、
私のような者でも夢を持ち続けていれば、いつか
希望がかなうということをみんなに伝えることが
出来ると思います」


寺内はうなずいてから、言った。


「では最後にひとつ質問があるのですが・・・それは
 あなたのその頬のについてですが、 もちろん、
 答えたくなかったら、かまいませんが」


一瞬、希美はのある左の頬に手をやったが、すぐに
その手を下ろして、


「はい!大丈夫です」


希美ははっきりと言った。


「それはいつからなのですか」


「生まれた時からあったそうです」


「そうですか、率直に言います。
 その痣は、あなたにとって何だと思いますか・・・」


「・・・これも自分だと思います。これまで色々な
事がありました、でも、今はこの自分と付き合って
行けるようになりました」


「あなたは、その自分が好きですか」


「はい!好きです!」


希美は、笑顔で言った。


「そうですか、ありがとう。これで終わります」


寺内は大きくうなずいて締め括った。



「帰郷 4」


希美は、3次審査を通過した6人の中に残り、残るは
最終審査だけとなった。


3次審査の翌日、ハッピー・ドリーム。が所属する
プロダクションの会長の川崎からプロデューサーの
寺内に電話が掛かって来た。


『おい!お前はどういうつもりや!』


「・・・なんのことですか」


『わかっとるやろ!オーデションや、オーデション!』


「なんのですか」


『アホか!!ハッピー・ドリーム。のオーデションや!
 まさか、お前はあの子を通すつもりじゃないだろうな』


「お言葉ですが、選考に関しては私にすべて一任されてる
はずですが」


『確かに選考に関してはすべてお前にまかしている、
今までもそうやって来た、しかし今度はそういうわけには
いかんのや!お前があの子を2次審査で通してからや、
テレビであの子の顔が出てからはマスコミのいいネタに
されて来たんや、インターネットでも笑いものに
されとんのを知ってるだろう!』


「ほう、会長でも例の掲示板をご覧になることが
あるのですか」


『見るわけないやろ!人から知らされただけや!
とにかく、ハッピー・ドリーム。にあの子を入れるわけ
にはいかん!』


「あの子の、どこがいけないとおっしゃるんですか」


『アホか!わかりきったことや、あんな片端者・・・』


「会長!言葉には気をつけてください。あなたの人格を
疑われますよ」


『・・・わかっとる、とにかくよく考えてから選考
することやな、アイドルになる者は、心身共に健全で
なければいけないんや』


「いいですか、会長の言うのは、つまりあの子の
口が大きい耳の形がいけない、
目が細い、そして大きなホクロが気に入らない、
と言うことと同じなのですよ。
それは人がすべて違う顔
を持ってるように、その者の個性
なんです。あの子、安倍希美
心身共に健全な女の子だと確信しています」


『あの子のあの頬の痣がホクロだと言い張るつもりなのか』


「彼女に直接会ってみて彼女の魅力を再認識しました。
もし私が彼女の立場になったとしたら、あんなに明るく
振舞う自信はまったくないですね、彼女には興味が
つきないですね」


『お前が興味を持つのは勝手や、しかしあの子を
合格させるわけにはいかないんや!』


「選考に関しては私がすべて責任を持って行います。
もし、選考に口を挟まれるような事があれば、今度の件は
もちろん、今後のハッピー・ドリーム。のプロデュースも
降ろさせてもらいます」


寺内はきっぱりと言渡した。


『なんだとぉ!!契約があるやろ!』


「契約の一項に、〝不当な介入があった場合、契約を
解消できる〟とありますよ。今回の場合に該当します」


『わかったわかった!早まるな!俺は単なる
要望を言ってるだけや!
まだ最終選考が残ってることやしな、
頼むからようく考えて選考して欲しいだけや』


川崎は電話を切った。



寺内は、希美の書類に付箋されてる顔写真を眺めた。
普通なら1次で落とされて当然なのに、難関を
くぐり抜けて来て自分の前に現れた女の子
もっと知りたいと思わずにはいられなかった。