Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

主菜


私と光男がようやく会場の3階にたどり着いてみると、
会場の入口には警備員が一人だけ立っていた、
その警備員も浮き足立っていて、二人が会場に入るのを
見ても何も言わない。

会場内は騒然としていた、
幸い停電していないのが救いだったが、
突然の戦車砲の攻撃でほとんど全員が立ち上がり、
何事が起こったのかと口々に声を上げていた。

砲弾はビルの外壁に3発命中していた、しかしいずれも
外壁に大きな穴を開けたにもかかわらず、内部には貫通して
いなかった。


ステージにMCの男性が上がり、静粛にするようにと
マイクで呼びかけて、
「テロ攻撃により、このビルに砲弾が撃ち込まれましたが、
幸い被害はほとんどありません!
テロリストも軍によって殲滅撃退されました!
総統閣下も、この晩餐会を続ける事に支障はないと言明
されました。
よって、ゲストの皆様方はご安心して席に着いてください」


MCの男性の指示で楽団の演奏が再開されて、
会場を落ち着かせるように、ゆったりとしたクラシックの
音楽が会場に流れる。
それによって人々は席に着いていき、騒然とした雰囲気は
収まっていった。


私と光男もテーブルに着いて腰を降ろした。
外の様子も銃声や爆発も止み、静かになっていた。
光男はワインのボトルを取るとグラスに注いで一口飲む。
そして私を見ると、

「どうやら、外から攻撃した連中は全滅したようだな」
と、人事のように言う。

私は少し呆れ気味に、
「もうこれで終わりなのですか!女子供まで自爆テロ
犠牲にしてまで行った攻撃が何の成果もないなんて」

光男は口に指を当てて制して、
「場所をわきまえろ、聞かれたらどうする、
まだ終わったわけではない。これまで作戦は予定通りに
進んでいる。これからが本番なのだ」


その時、音楽が止みMCの男性がマイクで、
「皆さん、ご起立をお願いします。
そして拍手で迎えてください。総統閣下のご入場です」

会場の全員が起立して拍手する。
光男もそれにならって立ち上がり拍手をする。
私もしぶしぶそれにならう。

ステージの袖から軍服のでっぷりと太った50歳ほどの
男がステージの中央に出てくる。

この国の独裁者の、総統だった。

拍手が一段と高鳴り、
「総統閣下万歳!」の声もかかる。

20世紀の旧ドイツだったら、「ハイルヒットラー!」
と声がかかるところだろう。


総統の軍服は、20世紀に第二次大戦を引き起こした
張本人の旧ドイツの総統を思い起こす軍服だった。
20世紀の総統は写真で見る限り痩身だったが、
この国の総統は軍服のボタンが弾け飛びそうなほどの
肥満体だった。

国民の多くが飢えに苦しんでいると言うのに、
毎日のようにたっぷりと美食を重ねてきたような、
醜悪な体と言える。

続いて軍服の国軍の最高司令官や幹部将校、モーニング服姿の
政府の閣僚や高官達が続々と現れてステージの最前席の
テーブルに総統と共に腰を降ろした。


同じテーブルに腰を降ろしている光男に、
「また山口が戻ってくるかもしれませんよ、
確か、山口は光男さんと会った事がありますね、
今顔を合わすとまずい事になるかもしれませんよ」

光男はうなずくと、ワインと前菜のひと皿を持って他の
テーブルに移った。
誰もいないテーブルがいくつか空いていて、光男は
こちらのテーブルからひとつ置いたテーブルに背を向けて
腰を降ろした。

まもなく山口が姿を現した、
外の様子を聞いてみる、

「さっき様子を見に行ったら、戦車がこのビルに向けて
砲弾を撃ち込んでいましたね、被害はどの程度なんですか」


山口は給仕を呼んでワインを注文すると、
戦車砲が3発ほど撃ちこまれて、ビルの外壁に大きな穴が
あいたが、内部には貫通しなかった。
このビルの外壁はこういう事も想定して特別頑丈に設計されて
いると聞いている」

「なるほど、用意周到なわけですか。その戦車は
どうなったのですか」

「すぐに他の戦車によって破壊された。
テロリスト達は残らず殲滅された。自爆テロらしい爆弾攻撃で
多少の被害が出ただけだ」

「・・・そうですか」



その時、壇上に十数人の少女が出て来た。
見たところ14、5歳ぐらいに見える、同じくらいの少年も
何人か混じっている。

そして総統が立ち上がり拍手をすると、他の者も一斉に
立ち上がり手を叩くとともに大歓声を上げる。

少女達は白いギリシア風の布を肩から腰にかけて掛けている。
腕は出し膝から下の脚も出ている。
少女達は舞台から降りると、まず総統の前に止まる。

総統は少女達の腕や体を撫で回した、
その光景を見ていると、なぜか背中がぞくっとする
ような不快感を覚えてくる。

それから少女達は二、三人ずつに分かれて各テーブルを
まわり始める。
じきに私達のテーブルにもやって来る。


近くに来て見ると、少女達の体に掛けた布は透いていて
体の線が見える。
少女達は貼りついた様な微笑を浮かべ視線は遠くを
見ているようで、表情が無くまるで人形のようだった。

そのひとりの少女はたぐい稀な美少女で、ハーフのような
日本人離れの面立ちで、髪は金髪で細面の美少女だった。
彼女は私と山口に一礼すると、パーティーに参加したお礼の
口上を述べた後、ワインを一瓶置くと去って行った。


彼女たちの姿を見たことは無かったが、
さゆと同じように、ブリードビルで長い間閉じ込められて
飼育されてきたに違いない。
やがて少女達は舞台に戻ると袖にかたまり、舞台の
中央を空ける。


すると、MCの男性にエスコートされてピンクのドレスを着た
女性が舞台に姿を現した。
ゲストの大歓声と拍手が耳をつんざくほどに鳴り響いた。


現れたのは、さゆみだった。


「いよいよ、主役のお出ましだ」
山口が言った。

私はさゆを凝視した。