Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

金貨


午後になると、あの女医がやって来てさゆの診察を
始めたので部屋の外に出ると、
所用を済ませた山口が現われて、私を階下の事務所へ
連れて行った。

山口は自分の部屋に入ると私をデスクの前に座らせると、
「一ヶ月間、色々な事があったが何とか無事に最終日を
迎える事が出来たわけだ。ご苦労様と言っておく」

テロリストによるミサイル攻撃で死にかけたり、
さゆの自殺未遂騒ぎなど、波乱万丈の一ヶ月だった。

「さて、報酬だが、米ドル、欧州ユーロ、中国人民元
揃えている。希望の外貨を選んでくれ」


「そうですか。良かった、円で支払れるのかと思って
いましたよ」

国内の惨状で円相場は、かって約百年前の固定相場時代の360円まで
下落した後、外国為替相場から取引停止になっていた。

「通貨が嫌なら、金貨も用意している。
オーストラリア政府から発行された純度99・99%の金貨だ。
米ドルで三千ドルの価値がある」
「ありがとうございます。では、金貨でお願いします」
「よし。帰る時までに渡す」

「その金貨で百万本の薔薇を買えますか」
冗談めかして言った。

山口は顔を上げて、
「百万本は無理だが、一万本の薔薇を買えるだろう」
彼は真面目な顔で言った。


「なるほど」
通貨としての円が無価値になっている今は、金が
もっとも信じられる財産なのだ。

「どうするのだ、さゆみ様に贈るのか」

この薔薇を贈る話は、例のシャワー室での二人だけの
会話の中の話だった。
「・・・そんな所です」

10階に戻ると、部屋から女医が出て来た、
女医は私を見ると、
「今日は、あなたも診察するようにと言われてるの」
「僕はいたって健康ですよ。その必要はありません」

しかし、女医は私をつかまえると、廊下に置かれた
椅子に座らして診察を始めた。
胸のネームに「SUGAYA」とあった。


二十代後半ぐらいで、長い茶髪を後ろでまとめた彼女に
大きな黒い瞳で見据えられると従うしかなかった。
女医が脈をはかるため手首を取った時、
チクリと手首に痛みを感じて、そのまま意識を失ってしまう。


すぐに飛び起きたが、意識を失っていたのは、
ほんの一瞬のような気もするし、数時間のような気もする。
あの女医は自分に何かを施したのかと気になった、
別に体の異常は何も感じなかったのだが。



聖少女 16