Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

さゆと萌

悪魔の子

さゆの病気


さゆはここ1、2週間というもの体の不調に悩まされていた。
お仕事にも支障をきたすほどで、
マネージャーに相談すると、
「一度医者に診てもらったら」と言われたので、

そこでたまに診て貰う婦人科の病院に行く事にした。

さゆはすでに三十歳を越えて色々と体の不調が現れて
くる年齢になっていたし、重い気持ちで病院を訪れ
顔見知りの女医に数々の病状を訴えた。


まず、最初はトイレで出血に気がついたの。
生理の出血と思ったけど、最近生理が遅れていて
生理とは違うようだと思いました。二日ほど続きました。

それから胸の張りや痛みがあり、
それとお腹の張りや下腹の痛みがあるの。

他に腰痛もあり、それにこめかみのあたりがズキズキと
痛む片頭痛がするのです。

それに最近この年になってニキビが出たり、吹き出物、かさつき、
かゆみがよくあるんです。
夜に頻尿で何度も起きるのです。それにこれまで少なかった
便秘にもよくなるんです。

それと最近おりものの色が変わったし量も増えたんです。

それに、体がだるくて朝起きるのがつらくて、いくら眠っても
眠くてしかたが無いの。

最近神経が参っていて、
イライラする、怒りっぽくなる、わけもなく悲しくなって
泣く、不機嫌になる、誰にも会いたくない、暴飲暴食を
してしまうんです。


さゆの訴えを一々書きとめていた女医は、
しばらく考えていたが、さゆの顔をじっと見ると、

「ではまず体の検査をしてみましょう」

それでさゆは半日かけて数々の検査を受けた。

検査が終り、女医はさゆを前に腰掛させると、

「まず、道重さんの体は今の所これと言って、
悪い所はありません」

と言う。

さゆは眉をひそめて口をとがらし、
「そんなはずはありません!散々先生に体の不調を
言ったじゃないですか!!私は病気なんです!」

「道重さん落ち着いてください。お聞きした道重さんの
体の不調は、診るところ病気以外の原因だと思います」

「はあああ?どういう事ですかぁ」

「・・・道重さんは、八割、いや九割方、
妊娠していると思います」

「はっあぁ?!もう一度言ってください」

「今、道重さんは妊娠しています」

「えええええええええーーーーーー!?」

「道重さんの訴える症状は、すべて妊娠の
兆候から起きる体の不調なのです」

さゆは憤然と立ち上がると、怒りを込めて言った。

「馬鹿な事を言わないでください!
私が、私が妊娠してるはずがありませんーー!!
絶対に、絶対に違いますーーーー!」

女医はゆっくりと首を振ると、冷静に言った。

「道重さん落ち着いてください。
道重さんは妊娠してるとしか思えません。
何か思い当たるふしは無いのですか?」

さゆは顔を真っ赤にして、
「思い当たるふしが無いから違うと言うんです!
もう帰ります!」

さゆが帰ろうとすると、女医は

「お疑いなら、帰りにドラッグストアに行って妊娠検査薬を
買って検査すればいいですよ。500円で買えます」

 

さゆは自分のマンションに帰ったが、女医の言った事が
頭の中で渦巻いていた。
居てもたってもいられないほど混乱していた、
誰かに相談したいのだけど、こういう事はとても
家族には言えないし、話せる知人もいない。

相談出来る人物が一人だけいた、萌の母親の麻美だった。
スマホで電話をかけると幸い麻美はすぐに出た。

息せき切ってさゆは早口で医者に言われた事を言う、

さゆがひと息つくと麻美は、
「電話ではあれですから直接お会いして聞きたいです」

麻美はさゆのマンションへ車を飛ばして来る事になった。

麻美はすぐにやって来て、さゆはもう一度詳しく話した。
麻美はさゆの話を黙ってじっと聞いていたが、

「道重さんは、自分が妊娠する心当たりがまったく
無いんですね・・・」

さゆはうなづきながら冷蔵庫から冷たいミルクを取り出し
コップに並々と注ぎひと息に飲み干した。

そして大きく息をつぐと、
「今みたいに興奮してる時、ミルクを飲むと落ち着くの」

コップを置くと、
「あのね。私はここ何ヶ月、いえもう何年も男の人とは、
経験が無いの。というより生まれてこの方、男の人とは
まったく経験が無いの!」

麻美は大きくうなずいた。

「あ・・・一度これではいけないと、一大決心をしてある男性に
抱かれる決心をしたのよ。その人は信頼出来て、わたしも
大好きな人よ」

麻美は息をのみながら、
「その男性っていうのは・・・・」

さゆはズバリと言った。

「お兄ちゃんよ!!」

麻美はちいさくうなずいた。
「それで・・・」

「それで、お兄ちゃんはわたしを抱きしめてくれた。
その抱きしめてくれた、ハグしてくれたのよ」

麻美は少し前のめりになる。

「それでわたしは経験したつもりになったのだけど、
残念ながらそれはわたしが無知なだけだったの。
お兄ちゃんは私を女として抱くつもりは無かったわけ。
だからわたしはいまだに未経験のままなの。

それに私は男に興味が無いの。というより男が嫌いなの
お兄ちゃん以外の男が大嫌いなのよ!
そのかわり、女の子は大好きだけどね」

麻美はちいさく何度もうなずいた。

「だからーわたしが妊娠するはずが無いのよ!
たちの悪い感染症みたいに、男性と一緒の部屋で
同じ空気を吸って感染するみたいに妊娠するみたいな
事が無い限り、妊娠するはずが無いのよ」

麻美はしばらく考えていたが、立ち上がると
「もう夕方ですね。お腹がすいたでしょう。
買物に行きましょう。何か美味しい物を買って来て
夕食をしてそれから考えましょう」

「・・・そうね」

「その・・・道重さんはそのお医者さんの言った
妊娠検査薬を買って無いようですね」

「もちろんよ。妊娠のはずが無いし、それにそんな物
恥かしくて買えないわ」

「わかりました。買物をした後ドラッグストアに寄りましょう。
検査をすればはっきりしますから」

麻美の車に乗ったさゆは、
「あ、萌ちゃんは今どうしてるの?」

「ああ、先週道重さんに言ったと思うのだけど、
今、学校がお休みなので実家に行ってるんです。
私は仕事が忙しくて一人で先に帰ったんです。
萌は来週に帰る予定です」

「ああ、そうだったわね。忘れてた」

さゆは萌の事を想うと胸がきゅんとなる。
萌に会いたい、会いたくてたまらない。こんな事態になって
なおさら会いたい。

 

 

さゆの妊娠

 

さゆと麻美は車で大型スーパーに着くと広い店内を周って
買物を楽しんだ。 そう楽しかった。

さゆは一人暮らしをするようになってひとりで買い物を
するのが普通だったので、麻美と二人であれこれ喋りながら
買物をするのが新鮮でうきうきしてくる。

麻美は萌の母親であると同時に、一度は百合同士で関係を

持った事もあったし、もはや他人とは言えないほどの

良い関係だった。

大きなショッピングカートに山盛りの買い物をしてレジを出た時
スーパー内にあるドラッグストアが眼についた。

麻美は店内に入って妊娠検査薬を見つけるとそれを購入した。

さゆは車に戻ると、

「麻美さんは、妊娠検査薬を使った事があるの?」

麻美はさゆを見ると、
「わたしは萌の母親ですからもちろん使った事ありますよ」

「ああ。そうだったわね」

「検査薬が入ったステック状の容器を、お小水につけるんです。
そうしたら容器の小窓にラインが出たら陽性で妊娠してるという
事です。ラインが出なかったら陰性で妊娠していない」

さゆは下を向いたままうなずいた。

マンションに帰り着き、買い物を冷蔵庫に仕舞い終わると、

二人は一息ついて居間のソファーに腰をおろした。

麻美が、
「道重さん、お聞きしたい事があるんです。
少し立ち入った事をお聞きするかと思うのですが
よろしいですか」

さゆはうなずいた。

「先ほど道重さんは、経験をしたいと願って唯一の好意を持った
男性、お兄さんに抱いて貰いたいと思ったのはいつ頃の事
なんですか?」

「それは、わたしが二十歳になった頃だと思うの」
「そうですか。それでお兄さんは抱きしめてくれたけど、
男女の行為は無かったんですね」

さゆはうなずいた。

「それでその時、その後道重さんとお兄さんは何かされたの
ですか?」

さゆは少し考えた後、
「あの後、お兄ちゃんの部屋で夜遅かったので、一緒にベッドに
入ってお休みしたのかな」

「そうですか」

「子供の頃はよくお兄ちゃんと一緒に寝た事はあるけど
大人になってからは無かったの。
久しぶりに一緒に寝て少し緊張したけど、お兄ちゃんは
そんなわたしの髪をずっと撫でてくれて、わたしは
すのままぐっすり眠れたの」

麻美はあらたまってさゆに、

「道重さん。」 「はい?」

「道重さんは、その時経験したと思います」
「・・・・」

「信頼していて大好きな男性に、抱かれて一緒に寝たのです。
たとえ肉体的な行為が無かったとしても、その時
道重さんとお兄さんは結ばれたのです。精神的に。

肉体的とか精神的とか関係無いと私は思います。
今、道重さんは経験した大人の女性と言って良いと思います」

さゆの瞳からひと筋の涙が流れ落ちた。
「・・・そうなんだ。すごく嬉しいです。
麻美さん、本当にありがとう」

さゆは麻美の側に行きその手を強く握りしめた。

麻美は笑顔で立ち上がると、
「さて、そろそろ始ましょう。検査を」


麻美に言われてさゆは紙コップを出して来た。
それを持ってさゆはトイレに入った。

何か緊張してるのか中々お小水が出なかったけど、
やがて出始めると、紙コップに並々とあふれる。
さゆは半分ほど捨てるとそれを持って戻った。

少しの間結果を待つ時に麻美はさゆに、
「あらかじめ言っておきますが、私が萌を産んだ時の経験から
して道重さんに覚悟して貰いたいのです。
道重さんは妊娠していると思います・・・」

さゆはため息をつきながらうなずいた。

結果が出た。 ラインが出て陽性だった。

さゆは意外に冷静だった。
しばしの間二人は無言だったが、
麻美が口を開いた。

「女にとって、愛する相手がいてそれを望んでいたならば、
愛する人の子供を妊娠してると知った時は喜びが一番だと
思います」

さゆは顔を上げて麻美を見た。麻美は、

「今、道重さんは愛する人がいますか?」

今、さゆには愛している人が確信を持って
ひとりだけ存在すると言える。

さゆはきっぱりと言った。

「います。そしてその人の子供を望むかと問われたならば、
間違いなく望むと言えます」

麻美は大きくうなずいた。

「でも、その子は・・・・」

 

 

さゆと萌の子供

 

「でも、その子は・・・・女の子でまだ六歳なのよ」

麻美はおごそかに言った。
「道重さんのお腹の赤ちゃんは、萌の子だと思います」

さゆは信じられない風に首を振った。

「普通の女の子なら、大人の女性を妊娠させるなんて
不可能な事でしょうね。でも萌は違います。
普通の女の子では無いんです」

「嘘よ。萌ちゃんはどう見ても普通の女の子なの」

「これはまだ誰にも言った事はありません。
言っても信じて貰えないから」

「じゃあ、どんな女の子なのよ。萌ちゃんは
天使みたいに可愛いから、天使の子なんて言わないでよ」

「あ、惜しいわ。萌は天使では無くて、

 

悪魔の子なんです」

 

「はああああああああああーーー?!悪魔の子って!!!」

「そうです」

「ちょっと待って!ふざけないでよ!それじゃあ、麻美さんは
悪魔なの!?」

「私は普通の人間ですし、萌は間違いなく私が産みました」

「そ、それじゃあ・・・」

「そうです。萌の父親が悪魔なんです」

 

 

さゆの子は悪魔


「萌の父親は悪魔なんです」

さゆはため息をつきながら、
「・・・すると萌ちゃんは悪魔の血を引いてる」
「そうですね」

さゆは首を振りながら、
「だから、今私のお腹にいる子も悪魔なの」

麻美はうなずきながら、
「そうなりますね」

さゆは強く首を振りながら、
「あーーーーー、頭が混乱して何が何だかわからない」

麻美は平静にそんなさゆを見ている。
さゆはしばらく考えていたが、

「まず、問題は萌ちゃんの父親ね。
その男の人は本当に、悪魔なの?」

「本人が悪魔と言うのだけど、確証は無いけど」

「どうやって知り合ったの?」

「海岸で大勢の子供たちに虐められていたの。
それを私が助けてあげたの」

「ふ~ん。その人は悪魔じゃなくて、亀じゃないの?」

麻美は笑って、
「亀では無いみたい。それで私の部屋に連れて帰ったの。
虐められてボロボロになってたし」

「それでその人が悪魔だという証拠はあるの?」

麻美は少し考えて、
「証拠と言うかその人、悪魔が話してくれたの。
本当かどうかはわからないけれど。

その悪魔は、サターンの情婦のニンフに手を出して、
サターンの怒りをかって天上から下界に追放されたって」

さゆは首をかしげながら、
「その、サターンとかニンフというのは何なの?」

「サターンは悪魔界を支配する、言わば悪魔のトップですね。
ニンフは若い女の姿をした、精霊の事らしいです」

「ふ~ん、つまりその悪魔は上司の女に手を出して、
首になったというわけなの」

「まあ、そういうわけですね」

さゆはうなずきながら、
「それで、ぶっちゃけその悪魔を介抱してあげてるうちに
仲良くなって、ついにその悪魔に抱かれてしまって、
萌ちゃんが生まれたわけね」

麻美は少し首をかしげながら、
「まあ、結果的にはそうなんですが、不思議なのは
私としてはその悪魔と性行為をした感覚が無いのです」

「へええええ~悪魔の性行為は、人間とは違うなの~」

 

さゆの受胎

 

麻美が言うには、
「その悪魔の傷に薬をつけてあげたりお風呂に入れて
体を綺麗にして上げたのだけど、よく見たら
かなりのイケメンなのよ」
「イケメンの悪魔なの~」

麻美はうなずきながら、
「それに耳が尖ってたりして悪魔みたいな所もあるし
でも尻尾は無いけどね。そのうち私を優しく抱きしめて
きて、女性の扱いがうまいのよね」

さゆはうなずいて、
「女好きの悪魔なのね~」

「その悪魔とはキスをしたのだけど、けっこう
ディープなキスだったわ」
「それでキス以上の行為は無かったの?」

 

「そうなの。でも今考えたらそのキスが怪しい
感じだったの。その時悪魔が何かを私に口から
飲ませたようなの」

「ふ~ん、それは怪しいわね。悪魔の性行為は
キスだったりしてね。それでその後は
その悪魔とはどうなったの?」

「その後しばらく悪魔と過ごしてたのだけど、
一週間して、悪魔がスマホを貸してくれって
言い出したの」

「はあ?悪魔もスマホを使うの?」

「らしいわね。自分のスマホは天上から追放された
時没収されったて。それで慣れた手付きで操作して
誰かに連絡して話してたけど、
誰に連絡したのか聞いたら、悪魔の友達だって」

「悪魔界もITやSNSが盛んなんだ~」

「それで悪魔はすごい喜んでるの。聞いたら
その友達のとりなしでサターンの怒りも和らいで
また天上界へ戻れるって」

「ふ~ん、持つべきものは友達なの~。
それでどうなったの」

「それで悪魔は大喜びで私を抱きしめてキスしながら
愛してる。って言って天上界へ帰って行ったの」

「愛してる。って、それだけなの?何か、
お礼に玉手箱みたいのを置いていかなかったの?」

「私は浦島太郎じゃ無いのよ。その後、数週間して
自分の体の変調に気がついて、もしやと思って
妊娠検査薬で検査したら、まさかの妊娠だったの」

「へえええ~玉手箱ならぬ赤ん坊を残して行ったわけ
なのか。それが萌ちゃんだったのか」

「そうなの」

「でも、悪魔はどうやって麻美さんを妊娠させたのかしら」

「考えてみたら、悪魔に口移しに飲まされた物だけど、
唾液とは違うような、何か血のような匂がしたの。

悪魔はその時口の中を切ったようで血が出てたの
を憶えてるわ。もしかしたらその血が人間の精子みたいな
役割をしたのかもしれないわ」

 

 

さゆの恋人

 

ひと月ほど前の事、
その日萌は友達のあゆみと道を手を繋いで
歩いていた。
あゆみは買い物袋を握りしめて、
「早くアイス食べたいね~」

萌は笑顔で、
「家へ帰ったらすぐに食べようね」

休日のお昼過ぎで大勢人が歩いていた。
狭い道を時折車が通り過ぎて行く。

その時、背後で車のクラクションが大きく鳴り響いた。
そして人の大きな悲鳴が聞こえて来る。

萌がさっと振り返ると、車がスピードを上げて突進して来て、
人の列に突っ込んで来て、何人も人が跳ね飛ばされている。

萌とあゆみのすぐ近くまで車は突っ込んで来た。

萌はとっさにあゆみを抱きかかえると、地を蹴った。

車はようやく電柱に激突して止まった。
車が暴走した後には十数人の人が倒れていて
顔から血が流しながら泣いている女性や子供に
倒れてピクリとも動かない人が何人もいる。

現場は一瞬静まり返ったが、すぐに騒然となり
携帯で助けを求める人や怪我人を救助に走る人などで
大混乱していた。

萌とあゆみは、現場から二、三十メートルほど離れた
場所にうずくまっていた。
萌に抱えられたあゆみは一瞬の出来事で何が起こったのか
わからなくて戸惑っている。

萌はすぐに起き上がりあゆみの手を引いてその場から
走りながら離れた。

その時、萌とあゆみの様子を目撃していた人間がいた。
彼は一緒に居た友人に言った、

「あの女の子二人はすごかったよ!暴走車が迫って来た時
あの女の子は十メートルいや、二十メートル以上空を飛んで
逃れたんだ!?」
「そんなバカな!そんな事ありえないよ」

「いや!間違いないよ、この目で見たんだ!」

彼は、走り去って行く五、六歳ぐらいの女の子を
見送っていた。

萌は自分の行動が信じられなかった。
車が迫って来た時、ただただあゆみを助けたいという
思いで、走っては間に合わないと感じてあゆみを抱え
地を蹴って空を飛んでいたのだった。

あゆみは何が起こったのかわからなくて、
どうしたの?どうしたの?と聞くばかりだった。

萌はそんなあゆみの手を引いて小走りに歩きながら、
「何でもないよ。早く帰ってアイスを食べよう」

 

さゆは萌の事を考えていた。
自分のお腹の中の赤ちゃんは、萌の子供だという事を。

麻美が言う、
「道重さんの体調が悪くなる2週間ぐらい前だと思うけど、
確か、私が仕事が忙しくて家に帰れない時があって、その時
道重さんがオフの時で家へ来て貰って、萌と一晩過ごした日が
ありましたよね」

さゆはうなずいた。
あの夜の事を思い出すと、甘酸っぱさで体がしびれてくる。

「あの晩、道重さんと萌は・・・・」

さゆは眼をそらして頬を染めながら、
「はい。麻美さんがいない時に悪いと思ったのだけど、
萌ちゃんとわたしは、つい燃え上がってしまったの。
ごめんなさい・・・」

麻美は首を振ると、
「いいえ。謝らないでください。萌と道重さんは
恋人同士だと認めていますから。
あの日に道重さんは萌の子を受胎したのですね」

さゆはうなずいた。

麻美は、
「あの時萌は乳歯が生え変わる時期で、下の歯が一本
抜けかかっていて、ぐらぐらしていたので朝に私が
抜いたのよ。 何とか歯を抜いたのだけど、
少し痛いと言うので見たら歯茎から出血していたの」

「それでなのね・・・」

「そう。その夜に道重さんは行為の時、萌の血を飲んだのね」
さゆは深くうなずいた。

麻美はあらたまってさゆの前に座ると、
「女にとって妊娠、そして出産は大変な負担がかかります。
まして初産の時は想像以上の苦しみが伴うのです」

「はい」

「私も妊娠中や萌を出産する時は、大変な思いでした。
それに妊娠中や出産の後も一年以上お仕事を休んだために
経済的にも苦しい思いをしたのです。

道重さんにとって復帰して今が一番大事な時なんです。
そんな時に一年以上のブランクは致命的な事だと思います。
だから・・・中絶をする事を考えてもいいと思うのですが」

さゆはしばらく考えていたが、じっと麻美を見ると、

「わたし、萌ちゃんの子供を産みます。
わたしにとって生まれて初めて愛した人が、萌ちゃんなんです。
そんな萌ちゃんの子供を産みたい。絶対に産みます!
どんなに苦しい思いをして産みたい。
たとえお仕事を1年2年お休みして産みたい」

「その気持ちはわかります」

「麻美さんは萌を妊娠してる時どう思われたのですか?
初めての妊娠で、まして悪魔の子供なのに、どうして
産もうと思ったのですか」

「それまで私は子供はあまり好きではなかったの。
でも、考えてみたらお仕事が楽しくて結婚や男性と
お付き合いするつもりも無かったし、だからもう
子供を産む機会も無いかもしれない。
でも、自分の子供を一度だけでも産みたい。
だから子供を、萌を産む気になったの」

「そうなの。それで萌ちゃん産んでどうだった?」

麻美はほほ笑んで、
「産まれてきた萌が可愛くて、とても可愛くて、
本当に心から萌を産んで良かったと思います」

さゆは大きくうなずくと、

「これから生まれてくる子供は、確信があるんです。
女の子だと思うの。絶対に女の子に違いないと。
わたしと萌ちゃんの子供だもん。超絶可愛い女の子だと
確信しています」


さゆと麻美は空港に帰ってくる萌を迎えに行った。

萌の姿が現れると、
さゆはたまらず萌に向かって走り出した。
萌もさゆを見て両手を広げて駆け出してくる。

その様子を見ていた麻美は、ちょっぴり嫉妬めいたものが
あったが、幸せそうに抱き合っている二人を見ると、
それも仕方ないなと思ってしまう。

帰りの車の中麻美が運転し、さゆと萌は後席に乗った。
そしてさゆが言った、
「ねえねぇ、これから先私達一緒に暮らそうよ。
私達四人で一緒なら楽しく暮らせるよ」

麻美は、
「そうですね。それも良いですね」

萌はちょっと不思議そうに首をかしげて、
「四人?四人って、三人じゃないの?」

「いいの。四人でいいの~」

さゆはそんな萌の肩を抱きしめ引き寄せてキスしようと
思ったが、麻美もいるので萌の可愛いオデコに唇をつけた。

 

終わり。