Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご ラスト

りんご エピローグ


パイプ椅子

早朝、通し稽古が始まると、
観客席には作業員が入って取り外した座席の
取付作業が行われていた。

通し稽古が終わって、としこは例のスマホの貼り付けてあった
座席の場所を見に行くと、そこだけには何も無かった。

見ていると作業員がやって来て、そこにパイプ椅子を置いた。

チケットを持ってその席に座るファンの事を考えた。
まあ、何も無いよりはましなのか。
それにライブではたいていのファンは立ち上がるので
関係無いとも言える。


ヴァージンロード

としこは教会の花嫁の控室へ行ってみる。

りんごはウェンディングドレスで腰かけて鏡を見ていた。
としこに気がついて見上げる。

「綺麗だよ、りんご。最高に綺麗」

「あんがと」

「卒業。っていう映画を知ってる?」

「知らない。どんな映画?」

「式の最中教会に男がやって来て、花嫁を盗み出して

一緒に逃げちゃうの」

 

「へぇ~それで」

「だから、逃げようか」

「へ?」

「わたしとりんごで一緒に逃げよっか」

 

りんごはとしこをまじまじと見て、

「としことなら一緒に逃げてもいいよ」

としこは、グーでりんごの頭をコツンと叩いた。

「バカヤロー」

 

りんごは頬を膨らまして、
「何だよー、言い出したのはとしこなのに」

「言ってみただけ。乗ってくるとは思わんかった」

 

時間が来たので、二人はヴァージンロードへ向かう。

二人はヴァージンロードを腕を組んで歩いた。

りんごは気がついた。ロスに渡る前に見た夢と同じだと。

「りんご、愛してるわ」

これも同じだと、としこを見て、

「わたしも、愛してるよ」

「二番目にね。ほら一番愛してる人が待ってるよ」

 

スマホの持ち主


開演前にとしこは、警備の警官と話しているジェラード警部を見て
駆け寄ると、頭を下げてお礼を言った。

警部は通訳を呼んでくれた。

「ありがとうございました。警部さん達のおかげでこうやって
公演が出来るようになりました」

警部は首を振ると
「いや、私達は任務を遂行しただけです。あなた達の
公演への情熱と努力によって公演が行える事になったのです。

まだ終わってないですよ。公演中は観客席の様子を見て、
少しでもおかしな様子を感じたら、歌っている最中でも
ただちに私達に連絡してください」

「わかりました。ステージの上から気をつけて見ています」

警部はうなずきながら、
「あのスマホの持主がわかりましたよ」

「そうなんですか!」

「分解したスマホを組み立て直す事が出来て
持主に連絡が取れたのです。彼は座席の裏にスマホ
貼り付けた理由を話してくれました」

「いったいどんな理由で・・・」

「2、3日前のあのシアターのライブに、彼女と二人で
観に行ったそうで、そこで彼女と言い争いになって、
彼女は大変嫉妬深い女性で彼が浮気をしていると
責め立てて喧嘩になったそうです」

「・・・それで」

「それで浮気してないという証拠に、彼のスマホを見せろ。
という事になり、それで見せるからホールへ行こうと事になり、
先に彼女を行かせて、その隙にとっさにテープを持っていたので
自分のスマホを座席の裏に貼り付けて隠したそうです」

「はああ・・・」

「それで、スマホは家に忘れて来たと何とか言い訳して
難を逃れたわけという事で」

「そうでしたか、それで?」

「それで、彼に言ってやりました。

女の嫉妬は、爆弾よりも恐ろしい。

これからは浮気を止めるように。と」

それを聞いて通訳の人は笑ったが、

としこは、スマホを見つけた時の恐怖を思い出し笑えなかった。

 

としこは警部に、

「会場の警備でお忙しいと思うのですが、出来たら
少しだけも、私達のライブを観て欲しいのですが」

警部はうなずくと、

「わかりました。何とか時間を見つけて、わずかだけでも
ライブを観たいとは思っているのですが」

「私達メンバー全員は、このロス公演を非常に楽しみにして
この日のためにレッスンとリハーサルを懸命に
行って来たのです。お願いします」

「私は定年で今年限りでロス市警を、卒業します。
そうなれば自由にライブを観に行けます」

「そうなんですか。そうなったら日本に来て、
道長さんのライブを観てください」

ジェラード警部はそれを聴いて表情をわずかにくずして、
「良いですね。サユに会いたいです・・・」


としこは、警部の笑顔を初めて見たような気がした。

 

人生は二度ある

開演30分前に、としこはメンバー全員を集めて、
すべてを打ち明けた。

「ロス市警の警部さん達のおかげで、こうやって
ライブを行える事になりました。
でもまだ絶対安全とは言えないの。何時爆発が起きるかも
しれないの。だから」

としこは年下の2人、ららと乃乃実を見て、
「だから、あなた達には出来たら、この舞台に立たせたくないの・・・」

すると、ららが憤然としてとしこを睨むと、
「嫌です!!私達はメンバーの一員なんです。ここまで来て、
舞台に立てないなんて、絶対に嫌です!」

そう言ってららは隣の乃乃実を見た、

乃乃実は大きくうなずいて、そして冷静に言った。

「わたしも同じ気持ちです。ここで舞台に立てないなんて、
死んでも嫌です」

としこは二人の所へいき、抱きしめた。

「わかった。もう言わないよ」

そして振り返ると、りんごを見た。

りんごは、ららより怖い顔をしてとしこを睨みつける。

としこが口を開きかけると、
「言わないで!その先を言わないで」

としこはかまわず、
「あなたは、今日結婚式を挙げたのよ。
彼と永遠の愛を誓ったばかりなのよ・・・」

りんごはとしこに近づくと、力の限り抱きしめて、
耳元で言った、

「言わないでって言ったでしょ、

りんごを外すってぬかしたら、ころすよ」

としこは、りんごの瞳を見詰めた。

「だってさ、彼、旦那さんが観に来てるのよ。
良いところを見せたいじゃない。ね?」
そう言って笑顔を見せる。

としこも、ふっと微笑むと、

「仕方ないわね」

りんごはメンバーに振り返ると、

「さあ!時間だよ。今日もいっちょうやろうじゃない」

メンバーは円陣を組み、
としこの出した手の甲に名前を言いながら掌を重ねていく。

としこは顔を上げて、

「私達は、生まれた時は皆別々だったけど、
だけど、だけど・・・」

としこはその先を言えなかった。

メンバーは腕を上げ、歓声を上げて仕上げた。

そして肩を組んで舞台へ向かう。


りんごはとしこと肩を組むと、としこの耳に口を付けてささやいた。

「生まれた時は別々だけど、死ぬ時は一緒だよ」


そして音楽が鳴り始めた。

 

ライブは進み、りんごのソロ曲が始まり

舞台にりんごが一人で現れた。
黒い衣装で、頭に猫耳を付けている。

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「これから歌う曲は、りんごの作詞です。
タイトルは、猫は魔物」


猫は魔物

猫の武器は爪を振るう

猫は優美

猫の爪は
裏切者に振るう刃(やいば)


りんごは明を見つけて、明に向かって歌う。


猫は魔物

猫の武器は牙を振るう

猫は優美

猫の牙は
愛する者を守るための剣(つるぎ)


りんごは明に向かって猫のように前足を振るう。

ミャアアー。

 

猫は魔物。

猫は愛する者を見つけたら

刃と剣を捨てて尽くす

でも猫は気まぐれ

猫は魔物。

 

すべて終り、りんごは最後に引き上げてくる

としこに飛びつくように抱きついた。

しばらく抱き合っていたりんごは、

としこの耳に口をつけると、ささやいた。

 

「としこ、あなたも卒業するつもりね」

としこは、りんごの腰に手をまわして、

他のメンバーから離れた所に連れてゆくと、

「りんごには隠せないわね。

この公演は、ファンとメンバーの安全を考えたら

中止すべきだったのよ。それが出来なかったのは

リーダーとして責任を果たしたとは、言えないわ」

 

「そんな事無いわ。マネージャーさんから聞いたわ。

昨夜は会場で一睡もしないで舞台を守り抜いたのよ」

としこは首を振った。

「でもすぐには辞めないわ。りんごとわたしが、

いっぺんにいなくなれば残ったメンバーに負担がかかるわ。

来年早々に卒業するつもり」

りんごを見ると、涙を流していた。

もう一度りんごを強く抱きしめると、

 

「メンバー全員を愛してるわ。でも、りんごが

いなくなったグループに未練は無いわ」

 

「ねえ、としこもりんごと一緒に明さんの所で

三人で一緒に暮らせれば良いのに」

 

としこはりんごの頭をグーでコツンと叩いた。

「あ痛!」

「バカヤロ。そんな事出来るか!

それなら、もし明さんと別れたら私と結婚してくれる?」

りんごはうなずいて、

「うん。別れたらね」

 

「でも、別れないか」 「うん」

アハハハと、としこは笑った。

 

りんご 完

りんご その後

 

 武道館

りんごの卒業公演が始まる。 としこは、

「この後どうするの?」

「しばらくお休みを貰うわ」

「どれくらい?」

「一年か二年」

長年アイドルを続けたし結婚もしたのだから 休むのも良い。

「身軽になったらまた活動を始めるわ」

「そう。え?身軽ってどういう事?!」

「開演だよ」

 

二人は、ステージへ向かう。

「身軽になったらって、あんたまさか」

「その、まさかなの」

「そうか。あの小さかったりんごが、 ママになるなんて」

としこは、りんごのお腹に手をやると、

「MCでりんごは今一人じゃないってバラしちゃおう」

「やめてよー」

りんごはステージに立った。

 

終わり