Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

友男


そのビルは、変わった形をしていて普通のビルのように四角では無く
円筒で、巨大な城の塔のようだった。
色はくすんだ灰色で、2階から上はまったく窓が見当たらないので
何階建てなのかよくわからない。かろうじて高さから十階ほどらしい。
その円筒のビルは、一種異様な雰囲気をかもし出していて、これから
このビルである少女と一月に渡って生活する事になる私にとって
不気味な印象を与えた。


そのビルの最上階に上がって、ぶ厚い金属製のドアが開くと、
その少女が姿を現した。少女はにこやかな笑顔を浮べて私を見上げると、


「いらっしゃい。私の名前はさゆみというの。さゆって呼んでね」




2056年。減少傾向にあった日本の人口は政府の
産めよ増やせの号令が功を奏し右肩上がりの上昇を
見せ、二億人に迫る勢いになった。
そうなればなったで、ある問題が浮かび上がってきた。
食糧不足の問題だった。
食糧を輸入に頼って来た政府の無策が響いてくるように
なってきた。


そんな折大学2年生の私はある募集にやって来て、面接に何とか
合格して、ある場所で働くことになった。
募集の要件は、「容姿端麗・学歴優秀」の項が
当てはまって幸運にも大勢の中から選ばれたのだ。


私が応募した一番の動機は、豪華な食事がたっぷり
食べられるというのが魅力だったからだ。
昨今の食糧不足の影響で私のような学生の主食はおもに
政府から配給されるわけのわからない合成食品だけだった。
それらを庶民は「ペレット」と呼んでいるから、どんなものか
想像出来るだろう。


屑肉や野菜の屑を加工合成したペレットは、黒いかたまりに
過ぎず、とても食べられたものではない。
それが毎日の唯一の食事なのだ。
噂によると、政府のお偉方や一部の金持ちは豪華な食事で
毎日のように宴会を催していると聞いている。


私は郊外のある建物に連れて行かれた。
そこは十階建てのビルだった。
そしてある部屋に通された。
重く分厚いドアが開くと、中から一人の女性が現われた。


まだ若いその女性は私を見上げると、
「すごいイケメンね。予想した通りね」
その言葉はよく聞かされる。


「いらっしゃい。私の名前はさゆみというの。
さゆって呼んでね」


彼女はこぼれるような笑顔で言った。