Dark blueの絵日記

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

クローン・リカ 5


疲れてはてて、ぐったりしてしまう。
とても憧れのアイドルと入浴を共にした気分には、なれない。


部屋に戻ると、リカにパジャマを着せる。
そしてテーブルに置いた鏡の前にリカを座らせると、
ブラシを出して、後ろからリカの髪を梳かしてやる。
リカはじっと鏡の自分を見つめている、
その姿は普通の女の子と変わらないので、
ちょっと、複雑な気持ちになる。



リカは風呂に入るという初めての経験をしたせいで、
気持ちが高ぶっているのか、中々寝てくれない。
俺は布団の中に入り、子守歌なぞ知らないので俺の好きな唄、
タンポポの曲を歌いながら髪を撫でてやる。
じっと聴き入っていたリカはやがて、
やすらかに寝入ってしまう。


俺は布団から出ると側に座り、そのあどけない
寝顔を見つめた。
これから、リカを見守り、愛して行くことを誓った。
クローンとはいえ、一緒に生活をし、肌と肌を
つき合わせて暮らせる幸せを噛みしめていた。


その幸せも長くは続かなかった・・・。



翌日、電話が掛かってきた。
知らない男の声で、ハッピー・ドリーム。の事務所の者だと
名乗り、切り出した。


「あなたの所に、クローン人間が居るとお伺いしましたが」


俺はとっさにウソをついた、


「そんなクローン人間なんて、居ません!」


「嘘をおっしゃられると、あなたのためになりませんよ、
失礼ながら少々調べさせて頂きました、
同じアパートの住人によると、あなたの部屋から
赤ん坊らしき泣き声がすると聴いています。
新聞の集金人は、あなたの部屋に若い女性が居るのを
目撃したと言ってるようですが」


隣の男だ・・・それに、新聞代を払う時、リカの
姿を見られたかもしれない。


「すみません・・・確かにクローンが居ます、
しかし、それは先輩に100万円を払って
正当な注文のはずですが」


俺は、先輩の名前を出した。


「やはりそうでしたか、あの方には困っているのです、
勝手に不良品のクローンを持ち出されて」


「・・・・」


「ですから、今回のことはこちらの手違いでもありますから、
あなたの支払った料金は当方で払い戻しいたしますから、
クローンを返して頂きます」


「お金なんかいらない!このままリカを
こちらに置いて欲しいのです!」


「そういうわけにはまいりません、
不良品のクローンを放置するわけにはいきませんし、
私どもがクローンをレンタルしていることが公に
なると困った事態になるのです。
よって、明日にでもクローンを回収にお伺いします」


男は冷たく言い放つと電話を切った。


俺が茫然と受話器を握ったままでいると、
リカが不安そうな顔で近づいて来て、俺の顔を
覗き込んでくる。


「心配しないでいいよ」


優しくそう言うと抱きしめる。





別れの朝


俺はリカを連れてどこかへ逃げることも考えた。
金は無いが、サラ金にでも行って工面することは出来る。
しかし、果たしてそれがリカのためになるだろうか、
こんなどうしょうもない、俺みたいなやつと一緒に逃げて
リカが幸せになれるだろうか・・・。


とてもその自信は無い。


リカの着ている、俺のよれよれのジャージを触って見る。


リカには、なにひとつ女の子らしいことをさせて
やれなかった。
せめて最後に、女の子らしい可愛い服を着せてあげたい。


俺はリカの服を買いに出ることにした、
リカは、泣かないで黙って俺を見送った。



スーパーの婦人服売り場で俺はうろうろしていた、
なにを買ったらいいのか、さっぱりわからないし、
女性用の下着が並んでいるのを見ると、気恥ずかしくて
どうにもにもならない。
売り場をいったりきたりしている俺に、年配の女性の
店員が声を掛けてきた。


「なにをお捜しですか?」


俺は思わずびくっと体を震わせた、なにか変なやつだと
思われているのかもしれない。


「失礼ですが、さっきから困っておられるようですが、
若い男性の方は婦人服売り場での買い物は
しにくいものですけれど・・・」


その優しそうな店員に、思い切って事情を説明する
ことにする。


「実は、妹の服を買いたいのですが、どんなのを
買っていいのかよくわからないのです」


本当のことは言えない。


店員はうなずくと、〝妹〟の年や背格好を聴いてくる。


大体のことを言う。


「わかりました。それと妹さんの好きな色とかは?」


「ピンクが好きだと言っていました」


俺は有り金を全部差し出す、といっても一万円少々だが。
なにを買うかは店員にすべてまかすことにする。


やがて店員はピンクの可愛いブラウスとスカートを選んでくれた。
リカにとっても似合いそうだった。


俺は店員に深く頭を下げて礼を言った。


「ありがとうございます。妹は・・・・歩けないのです」


店員は笑顔でうなずいた。


「お兄さんも大変ですね、妹さんを大事にしてあげて
ください」


難病で歩けない妹を持つ兄だと思ったようだ。


アパートに帰って早速リカに着せてみる。
ピンクの服がとてもよく似合う。
梨華本人よりも似合ってるかもしれない。


「とても似合ってて、可愛いよ」


リカも嬉しそうな笑顔を見せる。


そしてなんとか立ち上がろうとする、
俺の手を借りて、ついに立ち上がる。


俺が手を離しても、少しの間立ったままでいる。
それを見て、つい不覚にも涙がこぼれた。


あわてて涙をこぶしで拭った。
顔を上げると、彼女の心配そうな顔がすぐそばにあった。


「何でもないよ、心配しないでいいよ」


そう言ってリカを抱きしめた、初めて立った幼い娘の、
父親の心境になっていた。



リカは、意味の無い言葉をむにゃむにゃと喋る。
立つことは出来たが、まだ言葉は喋れないようだ、


「いいかい、自分の名前はリカだよ、リカ」


リカを指差して、そう言うと、


「リ・・・?」


リカは自分を指差して言った。


「そうだよ!えらいね言えたね〜」


すると彼女は俺は指差して、


「リ・・・?」


俺は笑った、


「違うよ、俺は・・・パパだよ、パパ」


俺は、リカの父親なのだ。


リカはこくびをかしげて、俺を指差すと、


「パ・・・?」


「そうだよ!よく言えたね、いい子だよとってもいい子だね〜」



寝る時、ピンクの服が気に入ったリカは脱ぐのを
嫌がったので、そのまま寝かした。
俺はとても眠れなくて、いつまでもその寝顔を見つめていた。



別れの朝がやって来た。



リカとの別れを惜しむ間もなく、朝早く迎えが来た。


来たのは制服のがっしりとした体格の男が3人だった。
ひとりが、書面を出して言う、


我々は委託されてクローン人間を引き取りに来たと、
宣言する。


有無を言わせず、リカを連れて行く構えのようだ。


突然やって来た男達に怯えて、俺にかじりついていた
リカに、男のひとりが手を掛けて、俺から引き離して
連れて行こうとする。


ギャァー!!と叫び声を上げて、
リカは手足を振り回し暴れ始める、


あわててもうふたりが手をかすも、リカは異常な
ほどの力を出して大暴れで抵抗する、
ついには一人の腕に噛み付く、噛まれた男がうめく、
男達に手足を押さえられながら、リカは
俺に向かって泣き叫んだ、


パパーー!!


その悲痛な声に、たまらなくなって俺は男達の中に割って入る、


リカは俺が責任を持って連れて行くから乱暴は
やめてくれと懇願する、


男達が手を離すと、リカは俺にしがみついて来る、
痛いほど強く俺に抱きついてくる、


涙をとめどなく流し、パパ、パパとうわ言のように
つぶやくリカに、


俺はただ強く抱きしめてやることしか出来なかった。


ひとりの男が、この事態を予測していたかのように、
注射器を持って近づいてくる。
リカの後ろにまわると、スカートを上げて、
お尻に注射器の針を突き刺した。


やがて、リカはぐったりと意識を無くした。


男のひとりが手をかそうとするのを断ると、
俺はリカを抱き上げて、部屋の外に出た。


道路に駐車してあるワンボックスの車の
後部ドアから入り、彼女を中に寝かせる。


乱れていた、ピンクの服を直してやる。
そして彼女の手を取って握りしめると言った。


「さようなら、梨華・・・」


俺は、車が走り去っても、いつまでもその場に
立ちすくんでいた。